約 2,471,105 件
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/660.html
「ちょっと違った未来29」 原作IF 京介×桐乃 黒髪桐乃の過去編 ガタンゴトンガタンゴトン…。 「…」 「…」 朝からあたしと京介君は電車に乗って千葉に向かっている。あたしにとっては久方ぶりの故郷への帰郷であり、京介君もそのはずだ。 「…」 「…」 あやせがあたしと京介君の目の前から去って数日間…。彼女はあたし達の前に現れなかった。サークルにも来ていないらしい。激情のすべてをぶつけて来たあの日以来…彼女は一体どうしているのだろうか。 (…) あたしだってあれから心の整理が全く出来ていない。一体何を信じて何を疑えばいいのかまったくわからない。 あやせとのあの後、京介君からあやせの言っていたことを聞いた。あたし達がただの幼馴染みではなく本当は血の繋がった兄妹であるということが、彼女の言っていたことが正しいのかどうかを。 京介君は答えなかった。その代わり一回だけこくり、と首を縦に振っただけだった。 「…」 今日も長い一日が始まりそうだった。 ~~~ 「懐かしいね…」 「…ああ」 あたし達は今地元千葉にいる。そして今いるここはいつもあたし達がよく遊んでいた公園だ。時代が時代なのか、平日の昼間なのに今は誰もいない。いつも賑やかだった昔のこの公園を考えると少し寂しい感じがした。 たくさん遊んだなあ…。鬼ごっこにかくれんぼ、追いかけっこ。ジャングルジムの中に入っての捕まえっこ。それから…。 「ふふ…ここであの時京介君あたしの体におもちゃの聴診器当てて…」 「…やめろ」 そしてお医者さんごっこ。京介君は自分の行った過去の行動に恥ずかしくて耐えられないとばかりに顔を真っ赤にしてそっぽを向く。 「あの時あたしの体って他の子達より発育が良かったから…。ふふ、あの頃の京介君可愛かったなあ。あたしの体を触りながらお股をもじもじさせて…」 「からかうなよ…」 「でも…あの頃からあたしのこと女の子として見ててくれたってことだよね?」 「…」 ――俺は将来桐乃をお嫁さんにする! 子供だった当時。あたし達は何も知らない子供だった。何にも出来なくって、けれど何でも出来る気がして…。 彼の真剣なあたしへの告白。今でも大切に使い続けているこの彼からのプレゼント(ヘアピン)。 それをあたしはお姉さんとまで思っていたあの人を除いて大好きだったお父さんにもお母さんにも話さず、あたしの胸の中で温め続けていたのだった。 時を経るごとに無限と思われた世界が有限のものへと変質していき、すべての可能性に薄い闇の膜が覆われていった。自分に出来ること出来ないこと、自分に向いていること向いていないこと。そうやって自分に見切りをつけて夢という可能性に区別を入れて人は大人になる。 だけど…。 「ふふ…」 「…どうした?桐乃」 あたしの淡い初恋の思い出になる筈だった気持ち。初恋は絶対に実らないというけれど、それを考えれば神様の粋な計らいだとしか思えない。 「どうした?何を考えてる?」 「ふふ…。教えてあ~げない」 あたしは笑顔で京介君の顔を下から覗き込む。小さい頃もよくこうして上目遣いで彼の顔を覗いたものだった。 いつも笑顔だったおにいちゃん。今は無愛想な京介君。あの頃は子供特有の丸みを帯びた頬をしていたおにいちゃん。そして今は頬がこけ男性のシンボルであるひげを剃った後がある京介君。 「この…教えろ、桐乃!」 「きゃあ~~!!」 京介君はあたしの体を後ろから抱きつく。あたしは笑顔で彼から逃げようとする。 彼はあたしを後ろから優しく抱きしめ、そして…。 「ぁ…」 「…」 見つめ合う二人。彼の真っ黒な鋭い目の中の瞳孔が優しさに満ちていた。 「桐乃…」 「おにいちゃん…」 口づけへ…。彼の吐息があたしの唇にかかる。あたしは体をすべて彼に預け目を閉じた。そこへ…。 ぷにゅ 「ふぇ?!」 「く…ははははは!」 あたしの唇に京介君は指を当てていた。キスへの期待を裏切られたそんなあたしを見て…。 「ははははは!!」 「も、もう!」 京介君はおかしそうに笑う。そういえばそうだった。小さい頃も彼はこうしてあたしに期待させては罠を仕掛けて、罠に掛かったあたしを見て楽しそうに喜んでいたのだった。 「もう…!知らない!」 「はは…ごめんごめん。桐乃があんまりにも可愛いものだから…」 「ッ!」 おそらくあたしの顔はほっぺが焼けたように真っ赤に染まっていることだろう。そういえば彼はこうやっていつもからかって楽しんではこうしてあたしを可愛がってくれたんっけ…。 …そういえば彼は自分があたしをからかうのはいいけれど、他の男の子があたしを京介君と同じようにからかうといつもむすっと怒っていたんだっけ。話しかけても口を開いてくれない。それが怖くて悲しくてあたしが泣くとあたふたとして謝りながら慰めてくれたものだった。 「桐乃…」 「…」 そうして京介君はあたしの体を抱きしめながらあたしの耳元で、 「やっぱりおまえはいつまでたっても俺の妹だよ」 そう、後ろから愛おしそうにささやいた。 ~~~ 「ここが、今のあたし達の家なの」 「…」 今あたし達はアパートの前にいる。安い家賃で入れるぼろぼろのアパート。3人で生活するのでやっとの間取りだ。 「…」 …8年前のあの事件で意識を失い回復しても片足が不自由になったお父さん。当時あたし達はローンの組んだ一軒家に住んでいた。だけど生活に困窮し、その家と借りていた土地の借地権を家の抵当権ごと売り渡さなければならなくなったのだ。 「…ごめんね。こんなぼろぼろの家で…」 「…いや」 京介君に緊張の色があった。 それも当然だ。だって…。 ここまで話が進めば如何にあたしの頭でも大体の憶測がついた。 ピンポーン ドアホンを押す。旧型の、昭和の頃の古いものだ。そして、 「…久しぶりね。京介君」 中からお母さんが。そして奥にお父さんが不自由な片足を地面に置いて座りながらもこちらを見ていた。 「…お久しぶりです。佳乃おばさん、大介おじさん」 ~~~ 「ごめんねぇ。突然京介君も来るって桐乃から聞いたものだから用意が出来てなくって」 「…いえ」 お母さんは急須に緑茶を入れながら、 「大きくなったわね~?桐乃から聞いた時はまさか、と思ったけど…。こんな立派な青年に育って…」 「…」 お母さんは急須にお湯を注ぎながらも京介君を見ようとしない。だけど、それは見ないのではなく見ることがないのだ。だって今にもその目から涙がこぼれそうになっていたから。まともに見たらもう耐えられないのだろう。 「東京の工業大学に通っているんですって?立派になって…。将来は研究者か技術者にでもなるの?」 「いえ…。院には行かずに学部で卒業して家の家業を継ごうと思っています」 「まあ!」 「まだ何の権限もない若造ですから、最初は傘下の子会社の食品開発の現場まわりからですけど…いずれは…」 「あらあらまあまあ!立派になって!!…本当に…本当に立派になって…」 お母さんの肩が震えだす。 「げ、元気で…今も…元気で…い、いて…いてくれて…。あ、あたしは…あたしはそれだけで…」 持っていた急須からお湯がわずかにこぼれだす。体の震えが手まで伝わってきたから。 「…佳乃おばさん」 「ごめんね?こんなおばさんに泣かれたって迷惑なだけよね…。や~ね、年取るとどうも湿っぽくなって…」 「…」 京介君はそんなお母さんをじっと見つめていた。そこへ、 「母さん」 不自由な片足地面に置いて座っているお父さんが口を開いた。 「すまないが後で美味しい手料理も出してやってくれないか。せっかく久方ぶりに京介君が会いに来てくれたんだ。」 「ええ…そうね…あなた」 そうしてお父さんは京介君に向き直り、 「久しぶりだな、京介君。…こんなに背丈の大きな青年に成長して…」 「大介おじさん…」 「ふふ…なつかしいなその呼ばれ方。そうか…あんなに小さな少年だった京介君がなぁ…。時の流れというのは速いものだ…」 「…」 「それと、すまないな。大事な、それも久方ぶりに会う桐乃の幼馴染みを迎えるのにこんな無礼な格好で。どうか許して欲しい」 「いえ…こちらこそ…」 京介君は用意されていた座布団に正座で座る。 「それで…」 お父さんが口を開く。 「今日は私達に何か話があるのだろう?」 「…はい」 お父さんは不具合な足を投げ出し、背もたれにもたれながら京介君にそう聞いた。 「何かな?これまでの私達の、とりわけ桐乃の話かな?ふふ…うちの娘は親から見ても可愛らしい娘だが、少しそそっかしくてな…。そういえば京介君、君はもう彼女でもいるのか?広い東京なんだ、色々な出会いがあるだろうに」 「…」 京介君は答えない。目に暗い、しかし何かの決意の光が宿っていた。 そして…。 「大介おじさん。佳乃おばさん。いえ…」 京介君は居住まいを正し、 「お父さん、お母さん。今日は貴方達にお話を伺いたくてやってまいりました」 本当の両親に向けてそう呼んだ。 ~~~ 「…どこでその事を…」 何故知るはずのないことを…?お父さんとお母さんはそう口に出した。 「特別養子縁組、でしょう?」 お父さんは目を開いてびっくりしている。お母さんもだ。何故その事実を知っているのか?という疑問が寡黙なお父さんの顔に出ていた。 ――特別養子縁組 民法第817条の2―― 日本民法では817条の2を総則的規定として817条の3から817条の11までを法律上の要件、効果として定めている。 それは世界でも珍しい、成人してからの養子をも認める日本の養子制度においてもさらに特異な制度。 近大民法の知恵。 この法律を全く知らなかったあたしはこの後この事を詳しく調べたんだけど…。次のような概要らしい。 通常の世間一般で言う養子とは実の父母とは別の血の繋がっていない他人と親子の縁を結ぶことで親子関係が発生する。それは法律によって擬制される親子関係だが、当然法律上の扱いは実親子とほぼ同一である。血で繋がった親子関係か法で繋がった親子関係かの違いではあるが…これを普通養子縁組という。 しかし、この特別養子縁組は違う。これは実父母とは別にいる赤の他人である親と法律上も「実社会上」も血の繋がった親子とするものである。従って、養子縁組のスタートの日から赤の他人との「実親子関係」が始まり、本当の血の繋がった親とは親子の縁が終了する。 この特別養子縁組の立法趣旨は広く子供の福祉の為にあるという。よって、養子とされた子供は本来なら赤の他人である親を実の親であると思って育つし、本当の血の繋がった実の親の事を血の繋がらない他人だと思って育つ。当然、養子とされた子供にはこの事実は知らされない。そう、本来なら知ることなどないのだが…。 「そうか…槇島さんだな?」 「…はい」 お父さんはふう、と一つため息をついた。 「…槇島の義父に俺が16の孤児院を出る時に養子の話を持ち出されました。その時は俺の死んだ父さんの治療費の借金をどうしても自分の力だけで返したかったから、一度断りました」 「…」 「しかし俺が大学に入って20の頃…もう一度槇島の義父に呼び出されたんです。話はまた養子の件でした。しかし…」 お父さんとお母さんは京介君の顔をじっと見つめている。 「…俺の本当の父親は死んだ父さんではなく高坂大介という人だ、とその場で聞かされました」 「…」 「これは槇島の義父の温情でした。二十歳当時の俺は槇島との養子縁組に乗り気だったからです。これでもっと力が手に入ると思って…。だけど、義父は最後に俺に選択権をくれたんです」 「…」 「義父から16歳の俺に断られた後もずっと俺のことを養子にしたがっていたと聞きました。そして普通なら調べることの不可能な、俺の特別養子の戸籍を調べたんです。義父にすれば思いもよらなかったそうです。知り合いに裁判所に勤める裁判所書記官がいるそうなんですが、本当に軽い気持ちで念のために頼んだそうです。その人も試しに、と自分の官としての権限を使って裁判所のデータベースを開いて調べてくれたそうです。そしたら…」 「…おまえの養子縁組に対する家庭裁判所の裁判官による審判の記録が残っていた、ということか…」 「ええ。びっくりしたと言っていました。養親が二人とも死んだとはいえ、この子は実の父母がまだ千葉県に生きているのに孤児院に送られたのか、と」 「…」 お父さんもお母さんも目を伏せる。足が不自由でも決して気の弱いところだけは見せなかったお父さん。そのお父さんが本当に意気消沈として申し訳なさそうにしている。 「当時の俺は頭の中がもう無茶苦茶に混乱していました。どうしたらいいのかわからなかった。子供の頃いつも遊びに出かけていたあの高坂のおじさんとおばさんが俺の本当の父さんと母さんで、そして…」 桐乃と俺が、血の繋がった実の兄妹だったなんて。 そう、京介君は唇を噛み締めて呟いた。 「…」 「大介おじさん。佳乃おばさん。聞きたいことが二点あります。何故です?何故俺を特別養子として死んだ父さんに出したんですか?そして、そして何故俺のことを、」 身寄りがなくなったあの時に名乗り出て…もう一度家族として迎えてくれなかったんですか…? 「京介…」 それまで沈黙を守っていたお母さんが重苦しそうに口を開く。そこへ、 「いい。母さん。俺が話す」 「あなた…」 「これは俺に話させてくれ。元はといえば全て俺が悪いといってもいいことなんだ。それに…」 「…」 「それに京介には、今まで辛い思いをさせてきた…。京介には聞く権利がある」 「あなた…」 そう言ってお父さんは姿勢を正し、 「まず一つ目の質問から答えよう。おまえの死んだ父親におまえを養子とした件だ。当時俺は千葉県警で刑事をしていたのは知っているな?」 「…」 こく、と京介君は頷く。 「その時おまえの死んだ父親…先輩とは職場の同僚だったのだが、公私ともに仲良くさせてもらっていた。その時は彼の妻、おまえの死んだ義理の母に当たる人もまだ生きていた。おまえは知らないだろうな。その時おまえはまだ生まれていなかったから」 「…」 「この先輩刑事の夫婦には本当によくしてもらった。右も左もわからない若造だった俺はこの先輩に厳しい警察という巨大組織の中で、国民の生命と安全を守るという本当の意味での正義を教えてもらったものだ」 「…」 「しかしこの先輩夫婦には一つ悩みがあってな。…子供が出来なかったんだ」 「え?」 「子供に恵まれない二人は大いに悩んだそうだ。どうやら両方に共に生殖器に何らかの異常があったらしい」 「…」 「そうしている間に俺と佳乃さんとの間で子供が生まれたんだよ。それが…」 「俺、ですか…」 「そう。おまえだよ、京介。あの頃のおまえは手のかかる赤ん坊だった。ふふふ…懐かしいものだ。まるで昨日の事のようだ。仕事から帰ると真っ先にお前の顔を見に行ったものだ。当時余り普及していなかった育休なども使ったな。民間では使いにくいからな…。まあこれも公務員の特権というやつだな」 「…」 そこでお父さんはふう、と一度大きく鼻から息を吐いた。 「しかし、ある日子供に恵まれない先輩達から言われてな。京介くんを下さいませんか、とな」 「…」 「あのいつもお世話になっている先輩が深々と地面に頭を下げてだ。彼の奥さんも一緒だった。夫婦で揃って頭を下げられたよ」 「…」 「俺達だって彼らの気持ちは痛いほどわかった。俺も子供が出来た時の喜びを思えばおまえがいない時のことなどもはや考える事もできなかったからな。それだけ先輩達の熱意も我が事のようにわかったよ」 「…」 「俺と母さんは大いに悩んだ。何しろ初めてのわが子、一人息子だ。簡単に引き渡せるか。しかし先輩達も簡単には引き下がらなかった。そこで…」 「…」 「そこで仲介人として引き受けてくれたのが、田村さんの家の人達だった。もっとも、仲介人といってもそこまで仰々しいものではなく相談人といったところだが。田村さん達とは俺も佳乃も個人的に仲がよかったし、京介と当時一人娘だった麻奈実ちゃんが同じ年に生まれたとあって親近感もあった。田村さん達は麻奈実ちゃんを連れてよく我が家にも遊びに来てくれてな。その時に先輩達とも出会った」 「…」 「先輩達の京介を養子として引き取りたい、それも自分の「本当の息子」として、という話をすべて田村さんに話してな…。そこで色々なアドバイスをもらったよ。その相談の席は田村屋でしていたんだが、その時に田村さんの娘さんもいつもあそこに座っていたな。そしてその話し合いの結果…」 …まなちゃんが…。だからこの事を知って…。それであの時…。 「俺を…父さんの養子に?」 「ああ…。苦渋の選択だった。6ヶ月の試験期間の後、家庭裁判所から審判が下ってな。高坂京介の実子関係を終了しここに特別養子縁組の発生を認める、とな」 「…」 「その養子縁組の後に先輩の奥さん、おまえの義理の母になる人が事故で死んだ。病気でな。乳癌だった。当時まだ20台で若いから進行も早くてな…。すぐに帰らぬ人になったよ」 「そう、ですか…」 京介君は目線をじっと床に集めている。京介君…。 「もともとその先輩には身寄りがなかった。しかしまだ幼い子供のおまえがいる。これから一人で育てなくてはならない。そこで俺と佳乃さんが度々おまえの世話をしていたんだ」 「…」 「裁判所に見つかれば色々煩かったのだろうがな…。しかし養子として出したのにまた我が家に戻ってくるなんてな…。親子の縁は法律上は切れてはいるが血の縁は誰にも切ることはできない。先輩には悪いが嬉しいと言えば正直嬉しかったものだ」 「…」 「3年後桐乃も生まれ俺と佳乃さんは幸福の絶頂だったよ。先輩も幸せそうで京介も近くにいる。この日常がずっと続けばと…。だが…」 「8年前のあの事件…」 「…」 皆が皆、沈黙する。 あたしのお父さんは片足が不具になり京介君のお父さんは死に、そして何より彼のその後の運命そのものを大きく変えた事件だからだ。そしてそれに追い討ちをかける様な国家からの補償金の拒否。…もう何もかも星の巡り会わせが悪いとしか思えない。 「これが一つ目の質問の答えだ…」 「…そうですか」 京介君は軽く目を閉じた。今までの疑問に対する答えを整理しているのだろうか?彼の頭には様々な思いが反芻しているに違いなかった。 「では…二つ目の…何故俺の父さんが死んだあの時…」 「…」 京介君は悲壮感漂う顔で、 「何故あの時、もう一度親子としてやり直してくれなかったんですか?」 「…」 沈黙。お父さんは目を閉じている。お母さんもお父さんに寄り添っている。そして、 「…俺達に、お前を養えるだけのお金がなかったからだ」 「…え?」 京介君はお父さんを見つめる。 「本来ならお前に身寄りがなくなったその時点で特別養子縁組の解消が行われる。公益代表の検察官がな…家庭裁判所に取消を請求するんだ。だが…」 「…」 「だが俺達には資産がなくてな。あの事件による警察の補償金もない。桐乃もまだ小さい。そして俺は当時寝たり起きたりを繰り返していて今の状態に回復するまで相当のリハビリと時間を要した。おまえに全てを打ち明けると共倒れになる。…高坂家には何もなかったんだよ」 「…」 「家裁に請求する検事もさすがに無理だと判断してな…。民法817条の10の一項2号の「実父母が相当の監護をすることができること」に該当しないと判断された。検事もぎりぎりの解釈だったのだろう」 「そう、だったん…ですか」 「…すまない。それも今になっては全ては言い訳だな。俺達の経済的な困窮がおまえへの免罪符になるわけもない」 「…いえ。気持ちはわかります。だって…」 俺もそうでしたから…。 京介君は静かにそう口を開いた。今までの思いが再び去来しているのだろうか。 あの事件の後、孤児院へ送られた。その苦労はあたしには想像することすら憚られる。 お父さんも足の状態が今になるまで随分苦労した。京介君のお父さんであるおじさんと違って一命は取り留めたものの、それとこれとは話が別だ。不具の苦しみ、というのはなまじ生かされているだけ生き地獄にも感じるのだろう。 それをお父さんは生来の剛健な精神で持ち直し、愚痴一つあたし達に言わなかった。世間から見ればお父さんは単なる身体障害者で一社会的弱者なのだろう。だけどあたしにとっては、誰よりも強い、世界一自慢の父親だった。 「そうだったんですか…」 その日京介君は目を閉じたまま日が暮れるまで動かなかった。 ~~~ ガタンゴトン…ガタンゴトン…。 「…」 「…」 帰りの電車。あたし達は黙って電車の席に座っている。京介君はあたしの右隣で腕を組んで静かに目を閉じている。…冬だからか日が暮れるのは早く、辺りはすっかり暗くなっていた。 お父さん達の話を聞いたあたし達はあの後お母さんの作ってくれた料理を食べて部屋を出た。その時お父さんはビールを京介君に注ごうとしたが、あたしが京介君がアルコールが飲めない体質だと言うと残念そうにしていた。そして今は東京への帰りの電車の中。 久しぶりの実家とはいえ明日は大学の講義がある。彼との蜜月の日々に没頭するあまり学生の本分を随分おろそかにしてしまった。泊まっていくわけにはいかない。 「…」 京介君はあの後何も喋らなかった。実の父と母と思っていた人が実は赤の他人で、幼馴染の親と思っていた人が実の親で…。 彼の中では前から知っていたこととはいえ、こうして改めてその事実を突きつけられると忸怩たる思いがするのは当然だった。 (…) 彼の中ではどういう風に思っているのだろう?死んだおじさんのこと、お父さんのこと、お母さんのこと、それから…。 (あたしとの、こと…) もうどうしたらいいのかわからない。ずっと、ずっと好きだった彼が。あたしの存在のすべてといってもいいはずの幼馴染みの彼が。本当は…。 「ごめんな」 「え?」 静かに目を閉じていた京介君がそっと静かに呟いた。 「…」 彼はその後の言葉を告げない。あたしも聞き返せない。 そうしてあたし達を乗せた電車は光と人の溢れる東京へと運んでいった。 ~~~ 「…送ってくれてありがとう」 「…ああ」 ここはあたしのアパートの前。あの後東京についたあたし達はどこに寄るでもなくここまで無言で歩いてきた。 「…」 「…」 もう、何も交わせない。もう、二度と交わらない。 京介君が…大好きなおにいちゃんが…。本当は血の繋がったお兄ちゃんだったなんて…。 「…」 「…」 あたし達はもう二度と以前の関係に戻れないのだろう。 あたしは彼のことが今でも好きだ。愛しているといってもいい。けれどそんなことは世界が許さない。この健全な道徳と社会的良心に縛られた世界が、兄妹で愛し合うことを絶対に許さない。 「…ぅう…」 「…」 あれから色々なことがあった。ありすぎた。あやせにこの真実を告げられ、お父さん達にその真相を確かめ、そして…。 「うぐっ…うぇえ…」 「…」 涙がとまらない。どうしてなの。どうしてあたし達がこんな目に。 せっかく、せっかくあたしの生まれた時から育んできた初恋が、絶対に実らないと思っていた初恋が実ったと思ったのに。こんなのって…。 「うぐっ…えぇぇ…!」 「…ッ!」 涙を我慢しきれないあたしはおにいちゃんに強引に引き寄せられる。そして… 「ん…ふぁ…」 キス。涙と鼻水でぐちゃぐちゃのあたしの口の中に無理矢理舌をねじ込んでくる。 「桐乃」 おにいちゃんは抱きしめながらあたしの目を見つめて、 「最後に、一日だけ時間をくれ」 「…え?」 「俺達はこれ以上この関係を進めることが許されない存在だ。でも、でも…」 「…」 「…俺はおまえを手放したくない」 「…おにいちゃん」 真剣な目。真摯な表情。彼のあたしへの思いの丈のすべてが肌の温もりから、繋がった唾液から、その熱い吐息から、彼のすべてが伝わってくる。 「桐乃」 「…」 じっと二人は見つめあう。 「…最後に一日、おまえの時間を俺にくれ。そのうえで俺達の未来のことを真剣に考えよう」 「…おにいちゃん」 「いいな?」 「…はい」 彼にもう一度強引に舌をねじ込まれる。あたしは黙ってそれを受け入れ口内を彼の舌に蹂躙される。 胸に溢れる切ないあたしの思いでは裏腹に、どうしようもなくあたしの若い肉体は彼に発情していた。 …もう「妹」じゃいられない。 …そしてあたしとおにいちゃんの「最期」が始まったのだった。
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/1748.html
229 :Monolith兵:2013/07/09(火) 14 17 28 ※この作品にはTS要素が含まれています。ご注意ください。 ネタSS[俺の妹が○○○なわけがない!] 外伝1 「あたしの願いが叶うわけが・・・」 あたしの名前は高坂桐乃。自分で言うのもなんだけど、容姿端麗、文武両道で読モをやっているというスーパー中学生だ。この前など、あたしが書いた本が出版されてアニメ化まで行った。その話はおいおいするとして、あたしだって生まれつき才能に恵まれていたわけじゃない。全て努力の賜物である。 そんなあたしには3コ年上の兄がいる。容姿は平凡だけど、学業は全国トップクラス、スポーツは水泳をしていて部活こそしていないけれど、市民大会で何度も優勝していたりする。小さい頃のあたしはそんな兄に憧れていて、追いつこうと必死に努力したのだ。 でも、いくら努力しても兄に追いつくことは難しかった。当時のあたしが小学生だったというのもあるけど、勉強を頑張っても学級単位、スポーツを頑張ってもせいぜい学校単位。全国レベルの兄に追いつくには中学以降にならなければならなかった。 そして中学生になって、これまでの努力が結んできた。勉強は学年1位で県5位まで上がった。スポーツも、陸上部に入って1年生ながら県の決勝まで行った。読者モデルにスカウトされ、モデルの仕事を始めたりもした。 でも、兄はそんなあたしを引き離すかのように次々と結果を出していた。あたしは県トップクラスだけど兄は全国トップクラス。スポーツは中学生ならトップクラスだけど、兄は中学生の頃には大人と混じっての大会で優勝したり、一時は国体強化選手にという話もあった。 そして、あたしはいつも兄と比較されて、一段下の扱いを受けることが多かった。両親は兄よりもあたしにかまってくれていたけど、学校の先生や近所の人は兄をよく褒めたけれど、あたしはそんな兄の前にかすんでしまったのだ。 あたしはそんな兄が誇らしく、それと同じくらい妬ましく悲しかった。いつか兄に置いて行かれるのではないか。あの兄がそんなことをするわけが無いと今なら思うけど、当時のあたしは兄に追いつこうと必死だった。 中学初の夏休みは部活にモデルの仕事にと忙しかった。兄も水泳大会や勉強と家にいる日はそう多くは無かった。あたしは部活に勉強にモデルにと頑張ったけど、無理がたたったのだろう、部活中に転んで軽い捻挫をしてしまった。暫く部活は休むことになり、モデルの仕事が無い日は暇になってしまった。兄はあたしの怪我を傷買ってくれ、色々と世話をしてくれたけど、あたしは努力をせずに暇をもてあます自分が嫌だった。 そんなある日、テレビでとある神社の特集をしていた。その神社でお願い事をして叶った事が沢山あるというのだ。昔の偉い軍人さんの生まれた神社で、その人は忙しい中少しでも空いた時間を使ってこつこつと勉強をして、日本を勝利に導く為の戦略を編み出したという。他にも漫画やアニメの業界では神様扱いで、政治家、軍人の間でも軍神として今でも尊敬を集めているという。あたしも社会科の教科書で、大宰相などといわれていると習った覚えがあった。 当時のあたしはかなり焦っていたのだろう。翌日東京へと行き、その神社へとお参りに行ったのだ。もちろんお願い事は決まっていた。 (兄に負けないくらいの立派な人になれますように。) (兄に追いつけますように。) その日の夕方、家に入る前に一番星を見つけたあたしは神社で願ったことを再び願った。これが全ての始まりだったのだろう。 翌朝、起きた時にはあたしは私になっていたのですよ、嶋田さん。 おわり 230 :Monolith兵:2013/07/09(火) 14 20 57 226-228 嬉しくて兄いちゃん頑張っちゃったよ。 今回のは色々と突っ込みどころの多い作品だと思いますが、頑張って脳内保管してください。 作中に出てきた神社はわかるよね?一番星はたいてい金星だということも解るよね?つまりはそういうことだよ。 教訓:お願い事をするときは、祭っている神様が本物かどうか確かめましょう。また、一番星の別称は覚えておこう。
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/225.html
http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1286349444/30-35 「ねぇ、“先輩”?」 「んぁ? 家に来る前にどっか寄ってくか?」 ふと、何の気も無しに呼んでみた。 返ってくるのも気の無い返事で――面白くないな、と。 そう。 ……面白くない。 「どうかしたか?」 左にあるその顔を見上げると、相変わらずの気の抜けた顔。 どこにでもあるぼーっとしたというか、のんびりとしたというか、面倒臭そうというか……。 私が声を掛けたのに、私はその声に応える事無く……その顔を見上げるのみ。 「おーい?」 学校からの帰り道。 同じ学校の制服を着ての、帰り道。 いつもの面子での“遊び”でもなければ、私がこの人の妹に呼ばれたわけでもない。 この春から始まった“先輩”と“後輩”という関係。 そして、私の“趣味”と一緒に居てくれる関係。 でも。 「先輩」 「だから、なんだよ?」 この男は、その“関係”にすら、もう慣れてしまっている。 ……面白くない。 あの驚いた顔は何処に行った? ……はぁ。 視線を前に戻し、小さくため息。 「いや、何で溜息吐かれてんの俺?」 「気にしないで」 「普通気にするからな? 顔見られながら溜息吐かれたら気にするからな?」 「そう」 今度はどう呼ぼうか? 兄さん、は多分そう驚かないだろう。 前にも呼んだし。 もっとこう、意表を突いたモノが良い。 何と呼べば……。 「なぁ、俺の話聞いてるか?」 「聞いてるわ」 「そーかい。……はぁ」 また、見上げる。 困った顔。でも――――。 「なぁ、黒猫?」 「なにかしら?」 その目が、また私に向く。 眠たそうというか、面倒臭そうというか。 「ガッコか家の方で、何かあったか?」 「そうね――学校の方、かしら?」 ――この人はやっぱり、入り込んでくるのね。 どうしてこう、お人好しで、お節介焼きなのかしら? はぁ。 「どうしたんだ?」 「別に……少し、退屈してるだけよ」 「学校に刺激を求めてどうする……」 あら、そうかしら? 「刺激だけじゃないかもしれないでしょう? それに、学生としてその発言はどうかと思うわ」 「へぇへぇ。学校に楽しみ、ねぇ」 楽しみ楽しみ、と。 その声が小さく呟く。 ちょっと違うのだけれど、でもそう間違いでもない。 退屈、なのだ。 この人がこの――私が一緒に居る――この現状に馴染んでしまっている事が。 先輩と後輩。 しかも2学年も離れているこの“現実”にはありえない関係に馴染んでいる事が。 「部活の方じゃ、ないよな?」 「ええ。私の趣味、の方かしら?」 別に、部活に不満があるわけじゃない。 というか、現状にある意味満足――すらしている。 そう言えば、この人はどんな顔をするのかしら? 「そっか」 私からこうやって相談……とも言えないような事を持ちかけても、当たり前のように悩んでる馬鹿な人。 何でこの人は、こんなに馬鹿なんだろうか? はぁ。 「兄さん」 「んー?」 この人の家まであと半分。 通い慣れた――と思う帰り道を歩きながら、小さく笑う。 少し、楽しい。 ……退屈じゃない、時間。 きっとこの人は私が“何に”退屈しているかなんて、気付いてないんだろう。 そして、きっと気付かないんだろう――と、また笑ってしまう。 声に出さないように気をつけて。 私が楽しんでいる事を、この人に気付かれないように。 「退屈だわ」 「――よく考えたらなぁ」 「どうかしたのかしら?」 「お前が退屈だったとしよう」 「ええ」 そこで一呼吸。 「お前の退屈の解消法なんか俺が思いつくはず無いだろ!?」 「でしょうね」 だって、私とあなたは別人なんだから。 まったく。 「やっと気付いたの? 相変わらず馬鹿ね」 「ひでぇ」 「良い退屈しのぎになったわ」 「……お前、本当に後輩か?」 「あら、私が同い年か年上に見えるのかしら?」 見えねぇよ、と小さな呟きが耳を擽る。 ああ、楽しい。 「ったく、可愛げのねぇ後輩だな」 「まったく、面白味の欠片もない先輩ね」 「そこまで言うか!?」 クス、と小さく……本当に小さくだが、声に出して笑ってしまった。 「先輩を笑うもんじゃねぇぞー」 「う、煩いわね」 まったく。 この人は私の――この“ありえない関係”をどう思っているのだろう? こんな漫画かアニメ、ゲームの中のような関係を……どう思ってるのかしら? はぁ。 「お前も目上の人を敬わない奴だな」 「敬われるほど殊勝な人でもないでしょうに」 「さらっと酷い事言ったよな、今? な?」 「そんな事ないわ」 ええ、そんな事無い。 これでも尊敬――とまではいかないけれど、それなりに……ねぇ? ココロの中で誰かに呟き……顔を落として、苦笑してしまう。 だって、ねぇ? 自分で言っておいて、自分で否定してどうするのか。 だいたい、ココロからそんな事思いもしていないというのに。 尊敬はしていない。 でも、多分……頼りには、している。 「ねぇ、兄さん?」 「んあ?」 ふむ。 「これでも頼りにしてるのよ?」 「へぇへぇ」 あら、全然信じてくれてない。 「疑り深いのね」 「お前らのどこを信じろと?」 「信じてくれればいいじゃない」 それじゃ、痛い目見るのは俺だけなんだよなぁ、と。 そうね。 でも――それでも“私たち”は貴方を頼ってしまうのよ。 何度か頼ってしまったから、癖でもついてしまったかしら? 「困ったものだわ」 「困るのは俺の方だっての」 いいえ、私よ。 私の方なのよ? 本当に判ってないのね、このお馬鹿は。 「はぁ」 「溜息ばかり吐いてると、幸福が逃げるわよ?」 「わーってるよ」 クス、とまた笑ってしまう。 楽しいと、思ってしまう。 面白いと、思ってしまう。 学校には無い、皆で居る時にも無い、この人の家に居る時にも無い。 この人と“二人”の時の――。 「笑うなよ」 「はいはい」 退屈なんてどこにも無い時間。 そう言えば、何で面白くないなんて思ったのか……ああ。 「ねぇ、京介」 「…………はい?」 あら、面白い顔。 「相変わらず変な顔ね、兄さん」 少し、熱い。 うん――少し、だけ。頬が熱い。 「ん? いま」 「どうしたの、兄さん?」 「へ、あ……あれ?」 ふふ。 「どうかしたのかしら、この兄は」 「あー、いや、なんでもない」 そう。 トクン、と少しだけ高鳴るココロが心地良い。 この人の驚いた顔が、 照れた顔が、 悩んだ顔が、 ……ココロを揺らす。 「帰ったら何すっかなぁ」 「そうね……」 まぁ、二人でする事と言ったら――ほとんど決まっているのだけれど。 奥手と言うか、人並だというか。 結局私も人の子か――と。 「とりあえず、格ゲーで貴方を凹ますわ」 「とりあえずで凹まされるのか、俺は」 「ええ、良かったわね兄さん」 「良くねぇよっ」 ふふ。 「うは、Sだ。ドSが居る」 失礼な。 「私が虐めるのは、兄さんだけよ?」 「良い事言ってるつもりだろうけど、それ余計に最悪だからな!?」 また、小さく笑う。 笑ってしまう。 ああ―――― ――――この人と一緒に居ると、楽しいな。
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/499.html
http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1303394673/830 **************************************** 大人向け。18歳未満の方は速やかにファイルを閉じてください。 注意事項:本作は主人公がオリキャラという『外道』二次創作です。 ^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^ オリキャラNGの方は華麗にスルーしてください。 また、カップリングに強いこだわりのある方もスルーの方向で。 最初の150行ぐらいで判断していただけるかと思いますが、とにかく、 二次としてどうなの?と書いた本人が思ってしまったという。 タイトル:俺たちの田村さん 登場人物:田村麻奈実、高坂京介、「俺」、他 設 定:京介と麻奈実は大学生になっています。 京介には年下の恋人がいます。 物 量:1150行ぐらい **************************************** (1) 彼女と出会ったのは大学に入って間もない頃だった。まだ、五月の連休前だったから、 本当にこっちに来たばかりの頃だ。俺はサークルで高坂京介という男と知り合い、程なく 彼女、田村麻奈実とも知り合う事となった。彼女は家の手伝いがあるとかで、どこのサー クルにも入っていなかったけれど、高坂と一緒にいることが多かったから自然と知り合う 機会に恵まれたというわけだ。その点に於いて、高坂は俺の恩人と言えなくもなかった。 サークルのメンバーも含めて、二人を知っている人間の殆どは二人が付き合っているも のだとばかり思っていた。高坂は『ただの幼馴染みだ』、なんて言っていたが、それを鵜 呑みにする奴はほとんど居なかった。まあ、俺もそうだったけど。 五月の連休が明けてすぐのことだ。 俺はふらふらっと学食に向かっていた。ちょっと疲れていた。ここは俺が住んでいたと ころとは色々と違っていて、まあ、それは空や風の具合や、気温や空気の匂いとか空の広 さだったりするのだけれど、一番堪えたのは街や人間のペースの違いだった。 今にして思えば軽いホームシックだったのかもしれない。住み慣れた街の事とか、向こ うの友人達の事とか、ついでに両親と姉の事とか、十八ヶ月付き合って半年前に別れた彼 女の事とかをやたらと鮮明に思い出したりしていた時期だった。 食堂に学生の姿はまばらだった。夏のそれに変わり始めている日射しに照らし出される みたいにして田村さんが一人で座っていた。テーブルにはバッグと本、それに自動販売機 で買ったらしい飲み物の紙コップ。 珍しいな、と思った。でも、二人が別行動していても不思議はないわけか、と勝手に納 得しつつ、俺は引き寄せられるように田村さんの方へと歩いて行った。 「こんにちは。田村さん」猛烈に普通な挨拶だった。 「こんにちは。ええっと……」 つまり、名前は覚えてもらえていないのだった。まあ、顔は覚えてくれてるみたいだっ たので良しとすることにして、俺は二回目の自己紹介をした。 「ごめんなさい」と恐縮され、「気にしない気にしない」と言ってはみたものの、ちょっ とだけ傷ついていたりもした。多分、そのせいだ、 「今日は彼氏と一緒じゃないんだ」 なんていう意地の悪いことを言ってしまったのは。 「彼氏って?」ちっともお洒落じゃない眼鏡の向こうでまるっこい目が不思議そうに俺を 見上げていた。 「そりゃ、高坂にきまってるだろう」 すい、と彼女の視線が沈んだ。あれ、喧嘩でもしてんのか? と、思ったら、 「きょうちゃんには付き合ってる女の子がいるんだよ~。わたしはただの幼馴染み」 ほわんとした、ちょっと舌っ足らずのような声で、でも寂しそうに、彼女はそう答えた。 幼馴染み。それは高坂がいつも言っていることだった。それで、俺は田村さんが高坂の 幼馴染みで、且つ彼女だとばかり思っていたのだが、実はそうではないらしい。 「あ、そうなんだ」と応えながら思った。 ああ、まずった。これは地雷ではないか。 まあ、へらへら笑いながら地雷原に突っ込んでいったのは俺なんだけど。 そこでやむを得ず、 「何、飲んでるの?」 滅茶苦茶強引に話題を変えた。 「え? あ、紅茶。ミルクティ」 強引過ぎる展開だったが、まあ、なんとか。少なくとも気まずい状態からニュートラル なレベルまでリカバリーしたいところではある。そうしておかないと次に会ったときにな んとなく気まずくなりそうだ。 「好きだよね。女子はミルクティ」別れた彼女もそうだったっけな。 「……」不思議な間があって、「本当は緑茶がいいんだけど、売ってないから」 「俺は玄米茶が好きだな。売ってないけど」 くすっと、彼女が笑った、気がした。 「まあ、売ってても買わないとおもうけどね」 「どうして?」 「だって、お茶は急須で淹れて湯飲みで飲むところまで込みで好きだから。なんかさ、紙 コップで出てきたら萎える」 「……そっかぁ。そうだよね」 しげしげと紙コップをのぞき込みながら彼女は言った。 「ここ、座ってもいい?」 彼女の斜め前の椅子を指さして俺は言った。 「うん。どうぞ」 テーブルに鞄を置いて腰を下ろした。 田村さんが紙コップを持ち上げて口に運ぶ。少ししか残っていなかったのだろう。飲み きった様子だった。 「田村さん。さっきはゴメン」 「え? うん。気にしてないよ」手を振りながら彼女は言った。 「ありがと」 俺は鞄から飲みかけのペットボトルを取り出して蓋を開けて一口飲んだ。 くすっと笑い声が聞こえた。 「ん? どうかした?」と尋ねると、 「だって、紙コップだと萎えるのに ぺっとぼとる のお茶はいいのかなぁって」 確かに、テーブルに乗ってる俺のペットボトルの中身は緑茶だった。 「ううむ、なぜかペットボトルには抵抗感が無いなぁ。田村さん的にはどう?」 「わたしも平気かな。なんでかな」 「ふむ」「うーん」と、何となく二人で考えてみる。 「ふしぎだねぇ」 おばあちゃんが子供に言うような調子で田村さんが言った。 それがおかしくて、つい笑ってしまう。 「なあに?」 「いや、なんでもないし。ふしぎだねぇ」と俺も真似して言ってみる。 眼鏡の向こうのくりっとた目で俺を捉えて、それから小首を傾げて見せた。 ちょっと、可愛いかもしれない。 それに、なんだろう。会話のペースがすごく気持ちいい。 「これは湯飲みと違いすぎて気にならないのかもね」 俺はペットボトルを持ち上げて言った。 「そうかなぁ」なんて納得してない感じで彼女は言った。 俺は残っていた二口分を飲み干して、 「それも空いてる?」 紙コップを指さして訊いた。 「え、うん」 「じゃあ、鞄見てて。なげてくる」 俺は空になった紙コップとペットボトルを持って席を立った。 「なげるの?」 ものすごく不思議そうに田村さんが俺を見上げた。 「なげるよ」 「だめだよ。そんなの投げちゃ。迷惑だよ」 何をムキになっているのだろう? と思ったが。 「あー、ごめん。『なげる』ってのは捨てるってこと」 『なげる』は俺の地元の方言だった。 「そうなんだぁ。びっくりしたぁ」 ちょっと気恥ずかしくて、俺はそそくさとペットボトルと紙コップを『なげて』きた。 席に戻ると田村さんがにこっと笑った。 「えいって、投げるのかと思った」 そう言いながら、田村さんは何かを投げる仕草を見せた。あんまり遠くまで飛びそうに ないフォームだった。 「つい、言っちゃうんだよな。ずっとそう言ってたからさ」 「方言?」 「うん。北海道」 「そうなんだぁ。全然、気がつかなかったよ。こっちの人だと思ってた」 「まあね、北海道は殆ど標準語だから」 そうなんだよな。殆ど標準語だから。たまに通じない言葉があるってのが、却って厄介 なんだよな。 「そっかぁ」 「田村さんはずっとこっちの人?」 「うん。そうだよ」と彼女は言った。 まあ、そりゃそうだろうな。幼馴染みなんて引っ越ししてたら成立しない。 「いつこっちに来たの?」 「三月末。高校までは向こうだったから」 「一人暮らしなの?」 「うん。もうね、母親の偉大さをひしひしと実感してますよ」 いや、マジでね。自炊みたいなこともしてるけど、これが難儀で。結局、インスタント ラーメンとか弁当で済ませてしまうことも多い。 「そっかぁ。大変だねぇ」 「一ヶ月やってみてようやく感じが掴めてきたところ。田村さんは家事とかやる人?」 田村さんはこくりと頷く。その様子を見て、 「得意そうだもんね」と俺は言った。 なんとなく、田村さんにはそんな雰囲気があった。 「そんなことないよ」と彼女は言う。けれど、それは謙遜だろうなと思う。 「料理とか、得意そうだけど」 「どうして?」 「なんとなく」 「おばさんっぽいのかな。わたし」そう言って、彼女はてへっと笑顔を作った。 「んなことないよ」 それどころか普通に可愛い。ほんのちょっとだけぽちゃっとしてるところも俺的にすご く良い。とか、言ったら完璧セクハラだな。 「え~、よく言われるよ~。お前はおばさんくさいって」 「失礼な奴だな」 「だよね~」 「ああ、間違い無いな」 俺がそう言うと、田村さんは腕を組んでうんうん、としきりに頷いた。 「やっぱり、きょうちゃんは失礼だよ」 なんだよ。高坂かよ。ま、それにしても『ちゃん』付けはいかにも古い付き合いって感 じだよな。まあ、いずれにせよだ、 「高坂は失礼な奴だなっ」 言ってやった。ざまあみろ。 「だよね、だよね~」 「ああ、間違い無い」 俺がそう言うと、田村さんはやっぱり、うんうん、と頷いた。 (2) そんな事があって、俺と田村さんはお互いに見かけたときに声をかけたり立ち話をする 程度には仲良くなった。高坂とはサークルも同じだから、俺たちが三人でつるむようにな るまで、そんなに時間はかからなかった。 そうして打ち解けてみると、高坂と田村さんが一緒にいる時間が実のところそれほど長 く無いということが分かってきた。何処で何をやっているのかは分からないが、高坂とい う男はあきれるほど忙しい男で、電話だのメールだので呼び出されては姿を消し、翌日に なると淀んだオーラを引きずるようにして現れたりしていた。そんな高坂を田村さんは天 使の如き優しい眼差しで眺めていたりするのだが、それは俺にとってはちっとも微笑まし くなくて、むしろ痛々しくて、そして俺自身も痛かった。胸をチクチクと痛めながら高坂 を見ているであろう田村さんを見るのが辛かった。 それで、俺は彼女に、田村麻奈実に惚れているんだということを自覚した。 関東地方が梅雨入りして二週間が経った。腐海のように不快だ。 片恋の相手がつかず離れずで自分の傍にいるのって、どうなんだろうな。 そんな事を考えながら学食で昼飯を食べている時だった。 「ここ、空いてる?」 田村さんがどんぶりの乗ったトレーを持って立っていた。 「あ、うん。どうぞ」 俺の正面に田村さんは座った。彼女の昼食はきつねうどんだった。 「今日もカレーだねぇ」 彼女は言った。田村さんの言う通り、俺の昼飯カレー率はかなり高かった。 「安いし、味も悪くないしね」 俺が答えると、そっかぁ、と言って田村さんはうどんをちゅるちゅるとすする。 「でも、毎日だと飽きちゃうんじゃないかなぁ」 「そりゃそうだ。……火曜日と木曜日はカレーじゃない日にしようかな」 「ああ、それはいいねぇ」 田舎のばあちゃんみたいなリアクションだった。だが、それがいい。 ぽつぽつと午後の予定なんかを話しながら、俺と田村さんは食事を終えた。 彼女はふと外を見て「今日も雨だね」と言った。 「本当に雨ばっかり。こっちの梅雨時っていっつもこうなの?」俺が訊くと、 「あんまり降らない時もあるんだよ。今年はふつうかなぁ」と田村さんは答えた。 「そうなんだ」 これで普通ですか……。うんざりです。 「北海道は梅雨がないんだよね」 「無くもないけど、こんなに続かないし、こんなに蒸し暑くないから」 「じゃあ、大変だね」 「う~ん、まあ、そうだけど、とりあえず命に別状はないよ」 俺が応えると、彼女はくすっと笑って、「そうだね」と。 そんなやりとりの全部が心地よかった。 世界が俺に微笑んでくれてる、そんな気分だった。 ふと、壁にかかっている時計を見ると、随分と時間が経っていた。 ほんわりとした彼女の醸す雰囲気の中ですごしていると驚くほどの時間が経っているこ とがある。五分ぐらいのつもりが十五分経っていたりと、彼女が生み出す『田村さん時空』 では『うちゅうのほうそくがみだれる』のだ。 「そろそろ行こうかな」と田村さんが言った。通常の時空間に帰還すべき頃合いだった。 「俺も。これ、下げてくるから鞄を見てて」 俺は席を立って二人分のトレイを持った。 俺は後ろ髪引かれる思いで『田村さん時空』から帰還する。 午後の講義の後、俺はサークルのアジトに顔を出した。ゲーム研究会は結構な人数を擁 するサークルなのだが、俺の所属する所謂『制作派』はサークル内ではマイノリティだ。 俺は遊ぶよりも創る方が好きで、ゲームの制作は高校生のころからの趣味だった。高坂も 『制作派』に所属している。しているのだが、ほぼ素人で制作に関するスキルは殆ど無い。 どうやらバグ出しをやった経験はあるらしいのだが、どの程度のやる気で入ってきたのか よく分からない。と、言うかやる気だけはあると言った方がいいのか。 俺は制作用の共有ノートパソコンを棚から出して作業を再開した。今、担当しているの はアドベンチャーゲームのシナリオからルート分岐チャートとアイテムリストを起こす作 業だ。プリントしたシナリオに赤ペンで書き込みながら、フリーのドローツールでチャー トを描き、フリーの表計算ソフトにアイテムのリストとイベントとのマッピングを打ち込 んでいく。 作業を始めてから二十分ほどが経ったころ、タコ部屋(アジトもタコ部屋もこの部屋の 事だ。他にも閉鎖空間、風絶、結界とか様々な痛々しい呼称がある)に高坂が現れた。 高坂が担当しているのは俺が描いたチャートとリストのチェックだ。なんでこんなにきっ ちり役割分担をしているのかというと、どうやら大作ゲームを開発するという野望が制作 派首脳部にはあるらしく、その準備として分業開発の練習中ということらしい。 「うーす」と高坂が言うので、 「うーす」と応えた。 俺は高坂に出来上がっている分のデータを渡した。高坂はチャートとリストをプリント アウトして蛍光マーカー片手にチェックを始める。凄くローテクだ。しかし、やる気だけ はちゃんとある高坂にはぴったりの仕事だったりする。 珍しい事に閉鎖空間には俺と高坂しかいなかった。 「ちょっといいか?」 高坂が言った。 「ん? ミスってたか?」 チェックしながら進めているけど間違えることもたまにある。 「いや、」 「なんだよ?」 「今日、麻奈実と昼メシ喰ってたか?」と高坂は言った。 ああ、一緒にいたさ。隠すようなことじゃない。 だって、お前の彼女じゃないんだろ? それにしても、 「ああ、一緒だった。情報早いな」 サークルの誰かが見てたんだろう。別にチクらなくてもいいだろうに。 まあ、おもしろがってるだけなんだろうけどさ。 「お前さぁ、ひょっとして麻奈実が好きなの?」 高坂は手元の資料を目で追いながら言った。 お前、読んでるふりしてるだけだろ、と思いながらも、そこはスルー。 「だとしたら?」 とぼけてみる。 「……お前は俺の敵と言うことになるな」 「意味が分からん」 俺はマウスを滑らせながら言った。実は画面なんかまともに見てないのだが。 そして高坂も資料なんかきっと読んでいないのだろうが。 「つまり、麻奈実が男と付き合うなんてことは俺がゆるさん」 「はぁ? 高坂、お前さ、彼女いるんだろ?」あ、ひょっとして振られたとか。 「いる」 なんだよ。わけが分からん。 「なんだよ、それ。自分は彼女がいるのに、田村さんが彼氏つくるのは駄目なわけ?」 「その通りだ」言い切りやがった。 「なんで?」 「理由なんてねぇ」 最悪だ。どこのジャイアン様だよ。 「理由は無いけど、田村さんが彼氏を作るのは許さない、と」 「ああ、そうだ」 なに、こいつ。なまら、むかつく。 一体、こいつは何なんだ。何を考えている。田村さんをどうしたいんだ。俺にはまるで わからない。でも、ここで押し問答したって意味は無い。 「なるほどね。田村さんの事が気になるって奴に会うことがあったら伝えとくよ」 「あ、ああ」 歯切れ悪く高坂は応えた。 「それだけか?」 「お前は麻奈実の事、どう思ってるんだ?」 「お前の持ち物じゃないと思ってる」 高坂は険しい目つきで俺を睨んでいた。 すぐに睨み返してやった。俺が田村さんの事をどう思っていようが高坂には関係ない。 色々、言ってやりたい事はあったが全部飲み込んだ。不毛な言い争いにしかならないだろ うから。 俺は視線をディスプレイに戻し、何も言わずに作業を再開した。 「麻奈実には言うなよ」高坂が言って、 「言われるまでもない」俺が答えた。 しばらくしてサークルのメンバーがぞろぞろとやってきて、俺と高坂の直接対決第一弾 は水入りとなった。 牛丼屋で晩飯を食ってから、1DKのレトロな(ボロと言ってはいけない)アパートに 帰宅した。鞄を置いてベッドに寝転がると自然と溜息が出た。何をする気にもなれず目を 閉じた。シーツも毛布もなんとなく湿気っている感じがする。不快だ。 せっかく田村さんと食事して幸福度が上がったのに、高坂のお陰で俺の幸福度はだだ下 がりもいいところだ。俺の青春ポイントはちっとも貯まらず常に収支とんとんである。 まったく、高坂は何を考えているのだろう。 田村さんが男と付き合うのを許さない、なんてまるで子離れできない父親のようだ。 そのくせ自分は年下の女の子と付き合ってるのだからまったくわけがわからない。しかも 結構な美人らしい。まあ、それはいいとして……。 唯の独占欲なのか、本当に二股なのか。 高坂にあんな態度をされたら田村さんだって諦められないだろう。 それとも、ずっと幼馴染みで付かず離れずでいたいって事だろうか。そりゃあ高坂はそ うかもしれないけど、田村さんはそうじゃない気がする。 あるいは今の彼女とダメになったときのための保険とか。うわ、これ最悪だな。なんか、 こんな事を考えてる俺がダメ人間になりそうだ。 また、溜息が出る。 考えると今の関係性って田村さんにとって辛すぎだろう。幼馴染みで片想いの相手には 彼女がいて、そのくせに思わせぶりに近くにいる。いや、逆に考えると彼女がいるのに遠 ざけられないってことは田村さん的には嬉しいのか? 言ってみるか? 好きです、付き合ってください、田村さん 絶対に断られるな。なんだろう、勝てる気がしない。 それ以前になんだかんだで高坂に阻止されそうな気もするが。 嫌われてるってことは無いと思うけど、だからといってなぁ、 ……いや、待てよ。 断る立場だったらどうだろう。あの田村さんが人を傷つけて平気なわけがない。振られ た方(つまり俺)より振った方(つまり田村さん)の方がよっぽど凹みそうな気がする。 だから、なのか? 高坂の態度は田村さんを傷つける可能性をつぶすためなのか? いや……、いや、いや、それは考えすぎだろう。 きっと何かこれっていう明確な理由があるわけじゃ無いだろう。田村さんを思いやる気 持ちもあるだろうし、高坂自身の独占欲みたいなものだってあるかも知れない。そういう 幾つもの想いや重ねてきた時間があって今のようになっている、そんな気がする。 けど、このままでいいはずがない。では、俺はどうすればいい? 田村さんはどうしたいんだろう。 今のままでいることを本当に望んでいるのだろうか。 それとも、今より悪くなるのが怖くて動けないだけなのだろうか。 彼女の気持ちがわからない。 だから、彼女がそうであるように、俺もここから動けない。進む方向が分からなくて、 唯々立ち竦んでいるようで、そんな自分の無力さ加減がとても、 つらい。 (3) ようやく梅雨が明けて、俺の気分は緩やかに上昇中である。しかし、田村さんとの関係 には全く進展がない。未だにデートにすら誘えていないのは情けない限りなのだが、しか し田村さんの真意を掴めないでいる俺には手の打ちようが無いのだった。しかも、それ以 前の問題として、俺は自分が女の子と付き合うこと自体を怖がっているらしいということ に気がついた。シンプルに言えば、終わるのが怖くて始められない、そういう事だ。別れ た彼女と俺はお互いに良い方向を見つけようと思っていたはずなのに、なぜか最後は滅茶 苦茶な終わり方だった。その経験が俺に二の足を踏ませてしまうらしい。 ともかく、そんな俺の状況を察してなのか、高坂はあの日以来、俺のアクションに対し ては静観を決め込んでいる様子だった。田村さんと話したり、高坂を交えて三人で話した り、食事に行くこともあるのだが、別段変わったところはなく、これといって牽制じみた こともない。 だからと言ってのんびりと構えてはいられない。あと十日ほどで大学は夏休みに入る。 そうなると、田村さんと会う機会は激減するだろう。それはちょっと、いや、かなり避け たい事態だ。最悪、後先のことは考えずに突撃してみるしかないかもなぁ、いやいや、 そりゃあ無理だろう、などと考えつつ、俺はキャンパスに向かった。 講義が終わると学生達がぞろぞろと教室を出ていった。三人で同じ講義に出るのも良く あることで、こういう時の席順は真ん中に田村さん、その両側に俺と高坂が座るというの がお決まりになっていた。 「今度ね、うちのお店で夏のふぇあーをやるんだよ」 田村さんの実家、田村屋で夏の和菓子フェアをやるのだそうだ。 ま、しかし。『ふぇあー』ってのは『市』の事だろ。一軒だけの単独開催でフェアって のはどうだろう? と思うのだが、そこには突っ込まないでおこう。些細なことだ。 「またイベントとかやるのか?」高坂が言った。 「そうだよ~。あのね、お菓子作りの実演とか、体験とか、あと、夕涼み大会とかもやる んだよ。あと、ふぇあー限定の新作和菓子もあるんだよ。それでね、田村屋はただ今ある ばいと募集中なのです」 「アルバイトってあれだろ。荷物運び」 「うん」 「荷物運び?」 「米とか小豆とかの運び込み。結構、きついんだぜ」と高坂が言った。 知っているということは手伝いに行ったこともあるのだろう。多分、田村さんは高坂に 声をかけているのであって、それが俺の耳にも聞こえているってところなんだろう。だと すれば、ここで『俺、やるよ』なんて言うのも空気が読めてない感じだよな。そういう仕 事は割と得意なんだけど。 「へぇ。で、いつなの?」と差し障りのない発言で話をつないでみた。 「えっとねぇ、明日の三時ぐらいから夜まで」 俺的には問題ないが。 「あー、悪い。俺、行けねぇわ」 高坂はそう言ってから、ちょっと呆れ気味な表情を浮かべて「つーかよ、もっと早く言 えよ」と。 田村さんは、てへへ……と曖昧に笑って見せて「ごめんね」と言った。 どういうこと? 思案する。田村屋のフェアは前から決まっていたことだろう。人手が 無いってのも、まあ、本当だとして、なのに今日になって言い出すというのはちょっとお かしい。辻褄が合わなくてモヤモヤする。まあ、グダグダ考えていても仕方ない。 「あのさ、俺、ヒマだけど。よかったら手伝うよ」 「ほんと? でも、力仕事で大変だよ~」 「それは、大丈夫だと思うよ」 「本当かよ? あれ、マジできついぜ」 「だったら、お前も来て手伝えよ」俺は言った。 「明日は用事があって行けねぇんだって」 高坂はそう言ってそっぽを向いた。田村さんは俺たちに挟まれて曖昧に笑っていた。 「だってさ。田村さん、どう?」 「うん。じゃあ、お願いしようかな」 にこっと笑う。とても可愛い。そんな笑顔のまま、 「でも、本当に大変だからね~。恨みっこなしだよ」と彼女は言った。 翌日、田村屋で俺を待っていたのはトラックに積まれた大量の穀物袋だった。それらを 店の冷蔵室に運び込むのが俺の仕事というわけだ。 田村さんの父親はとても寡黙な人だった。穀物袋を担ぎ上げる俺の姿を見た親父さんは 「ふむ」と納得すると店の中に戻っていった。 「ちからもちなんだねぇ」と驚く田村さん。エプロンも良く似合う。とても可愛い。 「慣れだよ。俺、実家が米屋なんだよ。配達とか手伝ってたから」 そんなわけで穀物袋を運ぶのには慣れている。ちょっと鈍っているだろうけど中学生の 頃からやっていることだから身体が動きを覚えている。 「へぇ、そうなんだ」 「ここは俺だけで大丈夫だから」 「うん、お願い。終わったら呼んでね」 そう言って田村さんも店に戻っていった。 俺は真夏の日射しにジリジリと灼かれながら、トラックから田村屋の冷蔵室へと穀物袋 を運び続けた。貸してもらったタオルは拭った汗で重くなり、濡れたTシャツが肌にべた りと貼り付いた。 「しっかし、暑すぎだろ」 独り言も漏れようというものだ。 日陰に入って汗を拭う。 そして作業再開。ずっしりと重い米袋を持ち上げて慎重に運ぶ。ただひたすらに肉体労 働に没頭する。それはそれで楽しかった。確実に、間違いなく、やった分だけの成果が出 るから。三十分ほどで俺は全ての荷物を運び終えた。もう、すっかり全身汗だくだった。 顔をタオルで拭い、店の裏口から田村さんに声をかけて仕事が終わったことを告げた。 親父さんが倉庫の中を見渡して「ふむ」と納得すると店の中に戻っていった。本当に無 口な人だ。つか、俺って嫌われてる? などと詮索していると、親父さんと入れ替わりに 田村さんが店から出てきた。 「お疲れ様。早いねぇ。お父さん、感心してた」 「そうかな」どうにも、そう思えないんですが。 「うん、絶対に休み休みで一時間ぐらいかかると思ってたから」 「じゃあ、もっとのんびりやればよかったな。他にやることある?」 言いながら汗を拭う。田村さんは微かに首を傾げ、 「えっとねぇ、お風呂、入ってきて」と。 「……へ?」 首を傾げる俺に田村さんはにこっと笑う。とても可愛い。 とてとてと歩く田村さんに連れられて俺は田村家のお風呂へ。「これ、着替え」と田村 さんに渡されたのは新品の下着と灰色の浴衣だった。 「いべんとは、五時からだからそれまでのんびりしててね~」と言って田村さんは脱衣所 の引き戸を閉めた。どうやら、イベントの接客係を仰せつかったらしい。ともかく、汗で べたべたして気持ち悪いのでお風呂を借りられるのは有難い。これが深夜アニメとかだっ たら洗濯カゴに田村さんの下着が! みたいなイベントとかあるんだろうけど、ま、現実 にはそんなことがあるはず無い。脱いだ服を洗濯カゴに放り込んで浴室に入りシャワーを 浴びる。あー、まじ、きもちいい、なんて思ってたら、 「ばすたおる置いておくからね。あと、服、洗っちゃうね」と、田村さんが…… 「い、いいよ。そのままで」と、言ってみたものの、 「遠慮しなくていいよ~。お財布とか洗面台に置いておくね」と見事にスルー。 そんなまさかの逆イベント発生により、俺の不浄なる下着は田村さんの手により田村家 の洗濯機に投入されてしまうのであった。 二十分後、すっきり、さっぱり。容姿のパラメーターがちょっと上がった。 俺は田村家の居間で胡座をかいてぼんやりと扇風機の送り出す風に当たっている。首を 振る扇風機が作り出す風のリズムが心地よくて、うつらうつらとし始めた時だった。 「きょうちゃーん」 耳元でしゃがれた声がした。その直後、 「ぐはっ」 何物かに首を絞められた。俺は慌てて首に巻き付いている物に触れた。腕だ。その腕は 妙に細くて、しわしわの潤いの無い皮膚に覆われていた。俺はその腕をバンバンと叩いた が力が緩む気配がない。 「ひさしぶりだのぉ、きょうちゃーん」 耳元で囁いてくる気色悪い猫なで声。さらにまとわりつく加齢臭。 俺は背中に貼り付いている敵性生物の襟首を手探りで捕まえて、腰を浮かせて首投げの 要領で思い切り投げ飛ばした。 畳の上に投げ飛ばされて「ぐげっ」と悲鳴をあげたのはステテコ姿のジジィだった。 謎の生命体や物の怪では無さそうだ。と言うか、状況的に判断すると、このジジィは田 村さんの祖父であるに違いなかった。そして、畳の上に大の字になっている老体は断末魔 の悲鳴を上げたきりピクリとも動かない。とてもヤバイ。 「し、し、しっかりしてください」 お祖父さんの耳元で大声で言ってみる。しかし反応はない。 「どうしたの! おじいちゃん!」 田村さんが顔を引き攣らせながらお祖父さんの元に駆け寄り、 「しっかりして、おじいちゃん」 叫びながらお祖父さんの襟首を掴んで揺さぶった。 「田村さん! こういう時は揺すらない方が……」俺は田村さんの肩を掴んで言った。 その直後、お祖父さんの目がばっと開き、 「おじいちゃん?」と田村さんが声をかけると、 「誰じゃ! おぬしはぁああ!」とジジィが俺を指さして叫んだ。 ジジィ……、もとい、お祖父さんの趣味は死んだふりらしい。 それは趣味と言うより悪趣味だと思うのだが、それはさておき、あのあとお祖父さんは お祖母さんと田村さんにこてこてに説教されてしょんぼりとしていた。でも、それも『フ リ』だけなのだと田村さんは言った。 「いや~、すまんかった」とお祖父さん。 「いえ、こっちこそ。あの、本当に大丈夫ですか?」 「へーき、へーき。この通り」と言いながら得意げにボディービルダーみたいなポーズを 取って見せるお祖父様。心配して損した。 「もう、おじいちゃんが馬鹿みたいなことするからいけないんだよ」 「てーっきり、きょうちゃんが来ているもんだと思ってなぁ」 幼馴染みだもんなぁ。高坂は何回もここに来てて、家族みたいなものなんだろう。それ に俺の背格好は高坂と似たり寄ったりだから、浴衣の後ろ姿では別人だとは分からなかっ たのだろう。 「高坂は都合が悪くて来れなかったんですよ」 「そうかぁ、そりゃー残念だったの」 「しょうがないよ。きょうちゃんだって忙しいんだから」 何の用事なのか高坂は言わなかった。言わなかった事が答えの様なものだった。 「楽しみにしとったのになぁ……。しょぼーん」 しょぼーんって言うな。 「そうじゃ、もういっかい誘ってみたらどうじゃ」 「だーめ」 どうも会話の流れから察するに、お祖父さんは高坂に彼女がいるって事を知らないよう だ。というより、田村さんと高坂が付き合ってると思い込んでいるっぽい。 「いいじゃん、いいじゃん」 「だーめ。もうこの話はおしまい。お店にもどるね」 田村さんは素っ気なく言って立ち上がった。居間を出ようとする田村さんに、 「喧嘩でもしとるんか?」とお祖父さんは言った。 「してませんよーだ。ちゃーんと仲良くしてるよね。ねぇ」 田村さんは俺を見て言った。話を合わせてね、と、まあそうなのだろう。 俺は頷いて、「そりゃあもう、見てて腹立たしいぐらいですよ」と。 何やってんだろね、俺。 「妬かない、妬かない」とか言いながらジジィは俺の脇腹を肘で突いた。 「おじいちゃん、いい加減にしてよ。おばあちゃんに言いつけるからね」 田村さんがちょっとだけ強い口調で言うと、 「おー、こわいこわい」 とかなんとか言いながらジジィは奥の部屋に引っ込んだ。 「ごめんね」田村さんが言った。 何とも言いようがない表情だった。頬を緩ませ口元は笑っているのに、目元は酷く寂し げだった。そんな無理矢理の笑顔に俺はなんと言えばいいのだろう。 「気にしてないよ。お店の方、手伝うことある?」 「うん、ありがとう。じゃあ、そろそろいべんとの準備しようかな」 「了解」 俺は腰を上げて田村さんと一緒に居間を出た。 正直に言うと俺は田村屋のフェアを甘く見ていた。意外にもこの和菓子屋のイベントは それなりに強力な集客力があり夕涼み大会もプチ花火大会(プチなのに大会という自己矛 盾には目を瞑れ。正直、田村家のセンスは微妙なのだ)も盛況で、大人のお姉様達や、す ごく大人のお姉様達にからかわれたり冷やかされたりしながら不慣れな給仕に四苦八苦さ せられ、花火大会ではお子様達の相手をするハメになりよじ登られたりスネを蹴られたり と散々だった。 片付けが済んだ後、田村さんのお母さんが夕飯に誘ってくれたのだがそれは固辞させて もらった。色々あって疲れてしまったし、俺がいるとお祖父さんが高坂の事を蒸し返して きそうな気もしたから。 玄関の外まで田村さんが見送ってくれた。肩から下げたバッグには洗濯されてきちんと 畳まれた俺の下着とバイトのお代が収まっている。 「今日はありがとう。助かったって、お父さんが」 「そうかな。あんまり役に立った気がしないんだけど」 「ううん」ふるふると顔を振って、「そんなことないよ」と田村さんは言った。 そりゃ、まあ、田村屋の役にはたったのかもしれないけど、肝心の田村さんの助けには なれていない。 「高坂の事、知らないんだな。お祖父さん」 「うん。ずーっとね、勘違いしてるんだ」 そう言って田村さんは俺に微笑んで見せる。 「そうか」 「みんな、きょうちゃんの事すきだからね」 田村さんの弟も高坂を慕っているのだという。 そう言っている田村さん自身、今も高坂の事が好きなのだろう。 「それはわかるよ。でも、つらくない?」 「ごめんね。心配させちゃって。でも、平気」 平気な筈が無いだろう。 「そんな風には見えないよ」 彼女が顔を背ける。 「そんなこと、言わないで、くれるかな」 呟く様な田村さんの声はちょっとだけ震えているようだった。 「……でも、俺は、」 もういい、言ってしまえ。 好きだと言ってしまえばいいんだ。そう思った、その時。 「よかった、間に合ったぁ」 玄関口に田村さんのお母さんが出てきた。つっかけを履いてパタパタと外に出て田村さ んのすぐ隣に来た。お母さんは見た目も仕草も田村さんとよく似ている。 「これ、夕飯のおかず。おうちで食べてね。一人暮らしなんでしょ」 そう言いながらお母さんはタッパが入った田村屋のビニール袋を俺に渡した。 「すいません。いただきます」 俺が袋を受け取ると、お母さんは「また来てちょうだいね」と言った。 「はい。お邪魔しました」 軽く会釈すると、お母さんは何かを分かっているような目で俺を見て微笑んだ。 「じゃあ。田村さん。また」 「うん」 田村さんはにこりと微笑んで俺に手を振る。 俺はちょっとだけ手を振って見せて、もう一度軽く会釈してから田村家を後にした。 酷く切なかった。彼女の作り笑顔もなにもかも。 情けなかった。お母さんが出てきたとき、俺は『助かった』と思ってしまった。 言わずに済んだと思ってしまった。そんな自分に、凹む。 街灯がジリジリと呻っていた。 青白い月が、光っていた。そいつを見上げて俺は呟く。 どうすりゃいいんだよ、と。 (4) 然る後、結論は出た。やはりやるしかないないのだ。 俺は作戦の決行日時を夏休み前の最後の講義の後に設定した。 なぜなら、この作戦の実行により俺と高坂、そして田村さんは社会的なダメージを受け るからだ。そのほとぼりを冷ますための時間が必要だから、俺はその日を決行日としたの である。幸いにして頻繁に二人と行動を共にしていた俺は夏休みまでの二人の予定を大ま かにではあるが把握していたから作戦を実行に移すのはさほど難しいことでは無かった。 夏休み前の最後の講義が終わり教室からぞろぞろと学生が出て行く。 いつもの様に俺たちは三人ならんで座っている。 「高坂、田村さん、ちょっと話があるんだけど」 「ん、なんだ?」と高坂。 「人が減ったら話す。ちょっと待ってくれ」 「いいけどよ」 高坂は俺を怪訝な顔で見た。 「悪いな。どうしても今日、話しておきたいことなんだ」 田村さんはちょっと困ったような目で俺を見ていた。彼女の予感は多分正しい。 暫くすると教室から殆どの学生が出て行った。 「で、なんだよ?」高坂が言った。 まだ数名の学生が残っているが仕方ない。 「確認したいことがあるんだけどさ、前に言ってた、田村さんが男と付き合うのは許さな いって、あれってまだ有効なの?」 俺は高坂に言った。先に反応したのは田村さんの方だった。 「どういうこと?」と田村さん。 「お、お前、それは言うなって言っただろ」 「ああ。けどさ、やっぱ変だよ。それにさ、俺、それじゃ困るんだよ」 「俺、田村さんが、好きだから」 言った。ついに言った。言ってしまった。もう戻れない。 田村さんは一瞬きょとんと俺を見た。目が合った。それで完全に覚悟が決まった。 「田村さん、好きだ」 大事な事なので二回言った。 田村さんの頬が微かに赤く染まり、半開きになった口があうあうと動く。でも言葉は出 てこない。 田村さんの向こう側に座っている高坂の目を見た。 「だから訊いたんだ。田村さんが男と付き合うのは許さないって、今でもそんなこと考え てるのかって」 高坂が俺を睨み付けた。 「くっ、当たり前だ」 「そうか。でもよ、そもそもなんでお前がそんな事を言うんだ? お前には付き合ってる 娘がいるんだろ?」 「あ、ああ」 「お前が田村さんと付き合ってるっていうなら、そりゃあ手を出すなって言う権利だって あるだろうけどさ、お前にはそんなことを言う権利なんて無いよな」 「いや、ある」 「ねぇよ。田村さんが自分で決めることだ」 俺は今俺がいったことを高坂に言わせたいのだ。 「そうだろ?」 たったそれだけの事だ。 けれど、それがとても重いのだ。俺はそう思っている。 これは『今の関係』を守ることで田村さんを傷つけまいとする高坂の正義と、田村さん を傷つけてでも田村さんを『今の関係』から解放しようとする俺の正義の衝突だ。どちら も間違っていてどちらも正しい。それは主観の問題だから。 俺が思うに高坂を想ってきた田村さんの矜持は高坂が田村さんを必要としているという 一点につきる。付き合っている恋人がいても、なお、高坂が自分を必要としているという 事実が田村さんの心の支えになっている。俺はその支えをボッキリとたたき折ってしまお うとしているのだ。 そうすれば彼女はここではないどこかに立つことができるはずだから。 そこからなら、彼女はきっと歩き出せるはずだと俺は信じているから。 「断る!お前に何を言われても麻奈実は譲らねぇ!」 「だからお前のものじゃないだろうが」 「お前もわからない奴だな」 どっちがだよ。 「そこまで言うなら俺にも考えがある」 高坂の出方がわからない。正直なところ、リアルなバトルの経験は殆ど無い。 高坂が立ち上がり、教室の後方窓側へと歩き始めた。 「来いよ。そこじゃあ狭すぎる」 やるのか……。ああ、いいさ、 「つきあってやるよ」 俺も席を立って、高坂の後を歩いた。窓際で高坂は振り向き、 「お前がそこまで言うなら俺にも考えがある」 いざと言う時のために奥歯をぐっと噛み締めておく。 「あわわ、きょ、きょうちゃん……」 背後から田村さんの震える声が聞こえる。 けれど俺は彼女の方を振り向くことは出来ない。目の前の高坂の動きに集中する。 拳を握り直す。先制攻撃オプションは破棄。一発殴らせて可能なら反撃。殴り合いより つかみ合いの方がお互いのために望ましい。よし、来い! 高坂! 高坂の身体がゆっくりと沈み込む。そして、高坂が繰り出した技は、 土下座だった。 「この通りだ。麻奈実のことは諦めてくれ」 恐るべし、高坂京介。これじゃ、俺がものすごく悪い人みたいだ。 「やるな、高坂。だが、断る」 「たのむ、諦めてくれ」 床に額をこすりつけるようにして高坂は言った。 だが、俺だってここで引き下がるわけにはいかないのだ。 目には目を。歯には歯を。そして、土下座には土下座だ。 俺は靴を脱ぎ、床の上に正座した。さらに手を床につき頭を下げる。 「頼む。田村さんが男と付き合うことを認めてくれ」 なんで俺、高坂に頼んでるんだろうな……とか思ってはいけない。 「や、や、やめてよ、二人とも」 上から田村さんの声が聞こえる。が、その姿を見ることは出来ない。俺に見えるのは床 だけだ。 「ぬうう……」 高坂は唸った。そして、「断る! 断じて認めん」と。 高坂がここまで田村さんに拘る理由が俺には分からない。あいつが何を思い考えている のか分からない。俺は高坂じゃないし、田村さんと高坂をずっと見ていたわけじゃない。 まるで分かっていないと言った方がいいだろう。俺がやっていることはまるっきり見当違 いで無意味なのかもしれない。 でも、それでも、俺は今の彼女の状況が許せない。いつの間にか出来上がってしまった であろう切なすぎる現状が許せない。たとえ彼女が現状維持を望んでいるのだとしても、 俺はそんなの絶対に許せない。多分、余計なお世話だろう。そうだ、これは俺のエゴイズ ムだ。勝手すぎる暴走だ。それは分かっている。けど、だからといって、 好きな娘が苦しんでいるのに何もしないでいるなんて、そんなのよっぽどあり得ない。 「高坂。お前と田村さんの付き合いは長い。それについては俺に勝ち目なんてない。 だがな、俺は全力全開100パーセント田村さんの事だけを考えてる! どうだ、お前 には出来ないだろ! お前には付き合ってる娘がいるんだからな。どうしたって50パー セント未満のパワーしか使えまい」 なんとまあ出鱈目な理屈だよ。大体、『ぱわぁ』ってなんだよ。まったく小学生レベル もいいところだ。でも、肝心なのはそういうことだ。片手間で付き合ってる幼馴染みなん ぞに、こんなはんかくさい男に、俺は田村さんを任せられない。 「もう、やめてよ……」 姿を見ることは出来ないが、田村さんがおろおろとしている姿が頭に浮かんだ。 でも、ごめん、田村さん。俺は引けない。 「さあ、高坂。俺と田村さんが付き合うことを認めろ。認めてくれ」 折れろ、高坂。もういいだろ。お前も楽になれ。 「……決めるのは、麻奈実だ」 「そうか」と俺は言った。 「そうだ」と高坂が応えた。 「田村さんが良いと言ったら、良いんだな?」 ああ。それは麻奈実が決めることだ、と高坂は言った。 俺たちは顔を上げた。田村さんは真っ赤な顔をして、ちょっと涙を浮かべていた。 教室の外からがやがやと声が聞こえてくる。どうやら人垣が出来ている様子だ。 まあ、当然だな。 「ううう……」 田村さんは持っていた鞄を振り上げて、俺の頭をぼかんと殴った。まあ、当然だな。 別に痛くは無かった。物理的には大したダメージじゃない。物理的には……ね。 しばしの沈黙。そして、 「ばかぁあああー」田村さんの絶叫が教室に響きわたった。 彼女は潤んだ目で俺たちを一瞬だけ睨んで、鞄を抱えて走りだした。出入り口の人垣が さっと割れて、彼女の姿が消えていく。その場に取り残された俺と高坂は、最悪に辛気く さい顔をお互いに見せ合った。 「バカだってよ」高坂が言った。 「わかってるよ」俺は言った。 それぐらい分かってる。 高坂は俺の名を呼んで、それから、「すまねーな」と。 そんな事を言われる義理じゃない。むしろ助かったのは俺の方だ。 少なくとも高坂のおかげで俺がやりたかったことは出来たのだ。それは間違いない。 「別に。つきあってくれて助かった。じゃあな」 俺は立ち上がって膝にこびりついた埃を払い落とした。机の上に置きっぱなしになって いた鞄を肩にひっかけて俺は教室を出た。誰かに何か言われたような気もしたが、俺の大 脳はそれをちっとも理解しなかった。 夏の日射しの下をゆらゆらと歩きながら、馬鹿だよなぁ、と自分に呟いた。 (5) 高坂との土下座対決の翌日、俺は北海道に帰省した。実家近く(と言っても車で十分は かかる)のJRの駅まで親父が店の軽トラで迎えに来てくれた。母さんが意味不明なほど 喜んでくれて、腹がパンクしてもおかしくないぐらいに豪勢な晩飯を作ってくれた。数ヶ 月ぶりの母さんの料理は、そりゃあもう美味かった。 それから数日。 俺は実家の米屋で店番をしながらノートPCでレポートを作っている。ラジオはずっと 前からSTVラジオにセットされていて、多分もう何年間も変えたことがない。開けっ放 しの引き戸から弱い風が吹き込んできて伸びてしまった前髪を揺らす。盆休みの前にこっ ちの床屋で切ってしまおうか、なんてことをちょっと思ったりもした。 不意にカウンターに置いておいた携帯電話が断末魔の虫みたいな音を立てながら這いずっ た。俺は携帯を手に取り、サブディスプレイに表示されている名前を見て、 躊躇った。 うーん、と二秒考えてから携帯を開いて通話ボタンを押し、気まずさを噛みしめつつ自 分の名を告げた。 「あ、あの、田村です。今、いいかな」 田村さんの声はちょっと上ずっていた。 「うん、大丈夫」言いながら、俺はラジオのボリュームを絞った。 「どうしたの?」 なんとすっとぼけた台詞だろう。 数日前に『好きです』と言っておいて『どうしたの』は無いだろう。 「今、どこにいるの?」 「実家。店番してる」 「札幌、だよね?」端っこもいいところだが札幌には違いない。 「うん。そうだけど」 「あのね、今、羽田空港にいるの。これからそっちに行くから」 一瞬、意味が分からなかったが、微かに聞こえてくるのは間違いなく羽田空港内のアナ ウンスだった。 「ちょ、今からって」マジかよ。 「一時の飛行機に乗るから。千歳空港に着いたらまた電話するね。じゃあ」 「じゃあって、田村さん!」うわ、切れてるし。 時刻は一時十五分前。定刻運行ならもう搭乗時刻だ。 どうする? どうすんだよ? って、どうするもこうするも。もう、迎えにいくしかないっしょ! 俺は店番を母さんに頼み、親父の車で家を出た。 免許は十八になってすぐに取った。店を手伝うにしても、普通に暮らすにしても車が無 いと不便な土地柄だ。親父の車は十年落ちのレガシーで、見た目もその名の通りレガシー と成り果てているけど十三万キロを突破した今も元気に走ってくれる。千歳空港までは車 で一時間半ほどだ。一方、羽田から千歳の飛行時間も一時間半だ。田村さんが到着ロビー に着くのは三時ちょっと前だろう。 それにしても、まさか彼女が飛んでくるとは思わなかった。心の準備なんてあったもん じゃない。完璧に想定の範囲外、奇襲もいいところだ。 赤信号で一時停止。溜息をつく。 とりあえず、千歳に着くまで考えるのは止めておこう。 青信号。ギアを入れてクラッチをつなぐ。(マニュアルなのだ) 紺色のレガシーは札幌北のETCゲートをくぐり抜け、ボクサーエンジン特有のビート を響かせながら札樽道のランプを駆けていく。 千歳空港の広大な駐車場に車を止めて到着ロビーに向かった。本当は走りたいところだ けど、団体の観光客が多くて早歩きがやっとだった。ターミナルビル二階の売店ゾーンを 抜けたところで握りしめていた携帯電話が鳴った。速攻で出る。 「もしもし、今、着いたところ。ここからどうすればいいの?」 「あー、今、どこにいるの?」 「え? 千歳空港だけど」 精神的にこけた。 「それは分かってるよ。えーと、ANAで来たの? それともJAL?」 「え? うーんと、あなだよ」 てことは左側の到着ロビーだな。 「じゃあ、そこで待ってて。今、行く」 「えーっ! ちょっと、えー、こ、こ、心の準備が」 そりゃあこっちの台詞だっつーの。 俺は携帯を耳に当てたままで一階への階段を早足で降りた。緩い弧を描く千歳空港の到 着ロビーに彼女が立っていた。 プリントのワンピースに淡いグリーンのカーディガン。 傍らには小振りなキャリーバッグ。 携帯電話を耳に当てて、きょろきょろと辺りを見回している。 その仕草、醸し出す空気、間違いなく、そこにいるのは田村麻奈実だった。 俺は彼女に向かって歩きながら「見つけた」と。 携帯から「え? どこ?」と彼女の声が聞こえてくる。 彼女と目が合う。携帯電話をポケットにしまい込み、俺は彼女に駆け寄った。 ところがだ。俺は彼女を捜すのに夢中で見つけた後でどんなふうに声をかけるか、まる で考えていなかった。 「えーと、おつかれ」 他に言うことは無いのかよ! と、俺は俺に強く問いたい。 「急にごめんなさい。来ちゃった」 「あ、うん」 困った。困った挙げ句に俺は、 「ようこそ、北海道へ」などというトンチンカンな台詞を吐いたのだった。 心の準備が整っていない者同士である。会話は弾まない。 俺は田村さんを助手席に乗せて車を札幌市内へと走らせている。高速道路の両側はひた すら林とか原野とか、極めて人工的な構造物が少ない景色が続く。田村さんは俺が迎えに 来たことに驚き、次に俺が車で来たことに驚いて、東京との温度差に驚き、そして空の色 や広さや高さが違うことに驚いていた。俺はと言えば、田村さんが帰りの航空券を持って いないことに驚かされ、どこにも宿を取っていないことに驚かされ、「行けば何とかなる かなって」とあっけらからんと言ってしまう彼女に驚かされた。 「運転できるなんてすごいね」 「そうかぁ? こっちじゃ高三で免許取るのはそんなに珍しくないよ」 「そうなんだぁ」なんて彼女は言う。 輪厚のサービスエリアに車を止めた。所謂、トイレ休憩である。本当は千歳で済ませて おけば良かったのだが、千歳ではお互いそれどころではなかったということで。 サービスエリアの建物の前で田村さんを待つ。 晴天である。高い空にぽつんぽつんと雲が浮かんでいる。 爽やかな風が頬を撫でてゆく。 どうしたもんだろう。まずは話をしないと始まらない。どこで? 静かなところがいい だろうけど、公園とか? 札幌の地図を頭の中に思い浮かべてみる。中心部を南北に分断する大通、碁盤の目を描 く道路、北部をうねる高速道路、北西に石狩湾、南部をぐるりと囲む山々。これまでに行っ たことのある場所を次々と思い出し、そして俺は次に向かうべき場所を決めた。 このあと俺と田村さんがどうなるにしても、俺は彼女にあの景色を見せたかった。 戻って来た田村さんに「遠回りするから」と告げると、彼女は「うん」と応えた。 一時間ほどのドライブで目的地についた。 札幌市街を一望できる大倉山ジャンプ競技場の展望台が俺の決めた場所だった。展望台 は大倉山シャンツェのスタート地点の真上にある。 ジャンプ台の麓から展望台のあるラウンジまでは二人乗りのリフトで上ってきた。田村 さんはオリンピックの中継でジャンプ競技を見たことはあるけれど、本物のジャンプ台を 見るのは初めてだと言った。 平日ということもあって展望台には数組の観光客しかいない。 緑色の山の向こうに夏の日射しに照らし出された市街地が輝いている。ずっと続く市街 地の向こうには緑のなだらかな丘陵がうっすらと見え、その更に向こうで地平線が弧を描 いている。 「すごいね。地球って丸いんだぁって感じがする」 田村さんが喜んでくれてるのが嬉しくて、俺もちょっと笑った。 「ここから真正面が札幌の中心街。あそこの緑の島みたいになってるのが大通公園」 俺が指さす方向を田村さん目を凝らして見つめる。それからちょっとしてうんうん、と 頷く。そんな仕草も可愛らしい。 「大通公園の向こう側の鉄塔がテレビ塔。形は東京タワーっぽいけど全然しょぼい」 確か東京タワーの半分以下の高さしかない。 「そんな事言ったらかわいそうだよ」 「そんなもんかな」 うんうん、とまた頷く。 「あ、でもこっちの方が東京タワーより一年早く完成してたと思う」 「へぇ、先輩なんだぁ」と、なぜだか嬉しそうに田村さんは言う。 良かったな、札幌テレビ塔。少なくとも田村さんはお前の味方だ。ついでに俺も今日か らお前の味方になってやるさ。 俺は手すりから少しだけ身を乗り出し、左手方向を指さして、 「で、そっちの方が石狩湾。日本海」 街のずっとずっと向こう側で傾いてきた日射しに照らされた海が光っている。 田村さんが俺の指さした方を向く。さらっとした髪の毛が、さらっとした風にそよぐ。 薄いカーディガンに包まれた肩越しの景色を眺める。 「日本海って初めてかも」 彼方の海を見つめて彼女は呟くように言った。 「そっか、向こうじゃ海って言ったら太平洋だもんな」 「うん」と彼女の背中が応えた。 不思議だね。と彼女は言った。 「もしも、あなたと出会わなかったら、わたしがこの景色を見ることは無かったかもしれ ないよね」 「そうかな、観光地だもの。俺と出会わなくても来たかも知れないよ」 「うん。でもね、その時の気持ちで見える景色は違うと思うんだ」と田村さんは言った。 ああ、そうだ。それは真実だ。この景色は、今のこの瞬間、田村さんと見つめているこ の風景は、もう二度と見ることが出来ないたった一度きりのものだ。きっとそうだ。 「田村さん」 「うん」背中を向けたままで彼女は応えた。 「ごめん、あんな事して」 「あんな事?」 「夏休み前に、大学で」 「ああ。うん、ひどいよね。すっごく恥ずかしかった。でもね、」 そう言ってから田村さんは俺の方を向いた。 「きっと本当に悪いのはわたしなんだ」 田村さんはちょっとだけ顔を伏せて、ゆっくりと話し始めた。 自分の内側とか、過去とかを探りながら、それを言葉にしている様だった。 「きょうちゃんは優しいからわたしを必要としてくれちゃうの。 わたしはそれに甘えてたんだ。 でもね、 本当は、もうわたしの事、いらないの。 きょうちゃんの気持ちが遠くなっていくのがわかってたの。 でも、認めるのが嫌だったの。 けど、なにもできなくて。 勇気が無くて。 信じたかったの。 絶対にきょうちゃんはわたしから離れていかないって、 絶対にわたしのところに戻ってくるんだって、 わたしたちはずっとずっと変わらないって思ってたの。 信じてたの。信じたかったの。 でもね、きょうちゃんは、」 田村さんはそこで言葉を切って、小さく首を振った。 「全部ね、わたしがいけないんだ。わたしって鈍くさいから」 そう言って、田村さんはてへへと笑って見せた。 そうじゃない。そこは笑う所じゃない。俺はそんな笑顔は見たくない。 「田村さん。そういう時はさ、泣こうよ。そんな頑張って、無理に笑うなよ」 彼女の表情が一瞬固まった。微かに涙が浮かんでくる。表情が崩れかけて、それを押し とどめるみたいに彼女は下唇をきゅっと噛んだ。きっと、その表情こそが彼女の真実なの だと俺は思った。 本当はもっと話したいのだと思った。 泣きたいのだと思った。 その相手に、俺を選んでくれたのだと思った。それが嬉しかった。 彼女のために出来ることが俺にはある。 「俺はさ、田村さんと知り合って三ヶ月ちょっとだから、田村さんのこと少しし分かって ないけど、でもさ、俺はもっともっと田村さんのこと分かりたいって思ってる。 だって、田村さんのこと、好きだから。 あんなことやって恥ずかしい思いをさせちゃったけど、でも、それは本当だから」 田村さんは俯いて、その小さな華奢な手で俺のシャツの前身頃をきゅっと掴んだ。 そして俺の胸に額を押しつけて、声をしゃくり上げながら、彼女は泣いた。 憎かったの。と彼女は言った。 年下の可愛らしい女の子が憎かった。そんな風に思ってしまう自分が怖かった。 どんどん自分が汚らわしいものになっていくのが恐ろしかったのだと、 そんな自分を高坂に見せたくなかったのだと、 彼女は声を詰まらせ懺悔した。 けれど、そんなのは、きっと誰にだってあることだ。 「それも人を好きになるってことの一部だと俺はおもうよ。誰かを好きになったことのあ る人なら、田村さんを責める事なんてできないよ……」 俺だって、田村さんを責める事なんてできやしない。 けれど、彼女は首を振った。 当てつけのつもりだったの。と彼女は言った。 あなたと仲良くしていると、きょうちゃんが不機嫌そうになる事に気付いたの。 最初はそれが面白かったの。 きょうちゃんがわたしにしたことを、わたしもしてやろうって。 酷い事してるってわかってた。 でもね、 だんだん違ってきちゃったの。自分でもわからなくなっちゃったの。 変わっちゃったきょうちゃんを恨んだのに、いつの間にかわたしも変わっちゃったの。 ずっと、ずっと、わたしは変わらないって思ってたのに。 酷いよね。都合、良すぎるよね。 なのに、わたしは、こんなふうに、あなたにあまえて、すがっ……るの、なのに、 田村さんが言葉に出来たのはそこまでだった。 彼女は洟をすすりながら、溢れる涙を押しとどめることも出来ずに、 自分の中から溢れてしまった物に押し流されるように、 唯々、ひたすらに泣いて、泣いて、泣いて、泣いて……、泣いた。 俺に出来ることはそっと肩を抱き寄せることぐらい。 耳元で「いいよ、もっと泣いてもいいんだよ」と囁くと、彼女は声を詰まらせながら 「ごめんね、ごめんね」と呟いた。 こぼれた涙が眼鏡から滑り落ちてウッドデッキに水玉模様を描く。 心が軋み、胸が裂ける。 大好きな人が心の嵐に翻弄されているのに、俺にできることはこれっぱかしだ。 でも、これっぱかしだからこそ、これだけは俺がしっかりやらなきゃいけないのだ。 彼女は俺を選んでくれたのだから。 ここから逃げない。しっかりと彼女を受け止める。 支えるんだ。 泣かせてあげるんだ。 みっともなくても構わない。誰に見られても構わない。笑われたって構わない。 堂々と、堂々と、これが俺の役割だ。今、ここに存在する意味だ。 彼女が高坂を好きでも構わない。 それがどうした、なんぼのもんだ。 たとえ彼女が俺を好いてくれなかったとしても、俺は田村麻奈実が好きなのだ。 さあ、俺! 全力で、 彼女を支えて見せろ! 日がすっかり傾いて、札幌の街並みは金色に輝いている。 展望台の下にあるラウンジで景色をぼうっと眺めていると、 「待たせちゃってごめんね」と、トイレから戻ってきた田村さんが言った。 濡らしたハンカチで目を片方ずつ冷やしながら、 「変じゃ無いかな?」と聞いてくる。 「そんなに目立たないと思うけど」 彼女が思っているほどは目立たないと思う。まあ、眼鏡もあるし。 「そうかなぁ」 「大丈夫だって」 「うん」あんまり納得してないっぽい『うん』だった。 「じゃあ、行こうか」 ラウンジが閉まる時間が迫っていた。 歩きだそうとした俺のシャツを田村さんが捕まえた。 俺が振り向くと、田村さんはぱっと目をそらして俯いた。そのまま、 「あのね、今日、来たのはね……えっと、」と、呟く様に小声で話し始めた。 「うん」と応えて、彼女の言葉を待つ。 「きょうちゃんとのことはね、もう、きっと違う気持ちになっちゃってたと思う。 それに気付いたの。あなたが気付かせてくれたの。 それで、早く言わないと、わたし、また迷っちゃってダメになっちゃうって思ったから、 あなたに逢わなきゃって思って、それで、来ちゃったんだけど、あの、何を言わなきゃい けないかっていうと、その、えっと、だから、その、あのね……」 頬を真っ赤に染めてテンパってる姿が異常に可愛らしかった。 ずるいよなぁ、と思う。どうしてこんなにも彼女は俺のツボにはまるんだろう。 ま、だから惚れてしまったんだろうけれど。 「ねぇ、田村さん」 「え、うん」 田村さんの顔がすっと俺の顔を見る。目と目が合う。 こんなときぐらいはちょっと気障でもいいと思う。 「俺の彼女になってくれる?」 彼女の瞳がとろっと潤む。見てる俺の方が蕩けるような笑顔。 それから彼女はこくっと頷いて、 唯一言、「はい」と、とても可愛らしい声で言った。 (6) それからの事を手短に語っておくことにしよう。 俺は実家に電話して彼女を連れて行くことを話した。止まる予定だったホテルがオーバー ブッキングであーたらこーたらと、理由は適当にでっち上げた。母さんはパニック状態に なりながらも大慌てで物置と化していた姉貴の部屋を片付けて田村さんが泊まれる状態ま で回復してくれた。おかげで俺の部屋が物置と化してしまったのだが文句は言うまい。 実家の台所で母さんと田村さんが並んで夕飯の支度をしている様は、なんというかとて もむず痒かった。狼狽える親父なんてのも久方ぶりに見た。あんなに取り乱したのは姉貴 が一人暮らしすると言い出した時以来だ。 田村さんは二泊して三日目に帰って行った。一週間ぐらいいてくれても全然オッケーだっ たのだけれど、「突然来ちゃったからみんな心配するし」と言われては引き留めることも 出来なかった。早朝、俺は千歳まで彼女を送り、出発口の金属探知機のゲートをくぐって いく田村さんの背中を見送った。それから俺が向こうに戻るまで、毎日電話とメールで遠 距離恋愛気分を堪能した。 ちなみに、二泊とも別々の部屋で寝たから夜の素敵イベントは発生しなかった。 まあ、焦る必要なんてなかったし、俺的には田村さんと手を繋げるようになっただけで 全然オッケーだった。高校生じゃあるまいし、とか言うな。物事には順序があるのだ。 こうして高坂と田村さんはやっと唯の幼馴染みに戻り、俺と高坂はたまに悪乗りしすぎ て田村さんに怒られる友人同士となった。 秋が来て、初めての学園祭のちょっと前に俺は初めて田村さん……、麻奈実を抱いた。 それから幾度も俺たちは一緒に夜を過ごしている。とはいえ、朝まで一緒にいられる機 会はあまりない。その日の内に彼女をちゃんと家に送り届けるのも俺の大事な役割だった りするのだ。そうして田村ファミリーの信頼ポイントを積み重ねていくと、彼女のお母さん が見え透いた娘の嘘に騙されてくれると、まあ、そういうふうになっている。 そんなわけで、今夜女友達の家に泊まっているはずの麻奈実は俺の隣にいる。 朝まで一緒にいられる貴重な夜を、まだまだ楽しまないと勿体ない。 ベッドに横になったまま麻奈実の腰に右手をまわす。 左腕で頬杖をついて彼女の顔を眺めながら、彼女の腰からヒップのラインを確かめる。 滑らかで、柔らかい肌。 彼女の左手が俺の背中へ。俺の右手も彼女の背中へ。そして互いの身体を抱き寄せる。 素肌が触れ合う。胸と胸、腹と腹。 唇を触れ合わせる。啄むように戯れる。唇を緩く開き、抱き合うようにキスをする。 熱くぬめる口の中で踊るように舌と舌を絡ませる。 触れ合っていた唇を離す。彼女の甘い息が俺の唇を撫でる。 彼女の身体を強く抱き寄せて耳元で囁く。 「うん。もういっかい、しよ」と彼女。 唇にキス。耳朶にキス。首筋にキス。鎖骨にも、やわらかい乳房を食べるように唇で味 わって、乳首にキス。乳房に指を沈めると、切なげに麻奈実は喘ぐ。 乳房をほぐすように、くすぐるように、触れて、もんで、 甘く可愛らしい喘ぎ声を聴きながら、 首筋に、耳にキスをする。 彼女の手が俺の下腹に触れて、固くなり始めた愚息の裏筋を細く滑らかな指が撫でる。 堪らずに息を漏らすと、彼女がくすりと笑う。 「きもちいいの?」 「うん」そこは正直に。 右手を彼女の下腹へと伸ばして指先でラビアを撫でる。 人差し指と薬指でそっと開いて中指を沈める。愛液で濡れた指先で膣口を弄る。焦らす ようにかき混ぜる。彼女の喘ぎ声と、くちゅくちゅという音が混ざり合う。 「きもちいいの?」と意地悪く訊くと、恥ずかしそうに 「うん」と彼女は答えた。 彼女の手が固くなったペニスを包んで優しくこする。 「もっと奥まできて」 リクエストに素直に応えることにする。 中指を彼女の中に沈めていく。ぬるぬると滑る彼女の内側をゆっくりとかきまぜる。 指を曲げて、前側の肉壁を擦り上げるようにして刺激する。 「はあっんん……」 びくんと麻奈実の身体が爆ぜる。ひくひくと身体を震わせる。 指を引き抜いて、彼女の身体を強く抱きすくめる。 汗ばんだ麻奈実の肌が、熱く火照る身体が恋しくて、愛しくて、堪らない。 波が引くのを待ってから、 「いい?」と訊くと「きて」と彼女は応えた。 二つ目のコンドームを開封して装着する。 とろとろに蕩けているヴァギナにペニスをあてがい、ゆっくりと沈めていく。 麻奈実は眉根をよせて苦しげな表情を浮かべる。けれど、桜色の唇から漏れる喘ぎはしっ とりと甘く濡れている。 奥へ、奥へ、根本まで沈める。 「ふぅ、ん」と、彼女が切なく喘ぐ。 身体を重ねてキスをする。 彼女の腕が、俺の背中を抱きしめる。 少し身体を起こして上気した麻奈実の顔を見つめてみる。 潤んだ瞳が俺を見上げる。 「きもちいい?」といたずらっぽい笑顔で彼女は言った。 良くないはずがない。 「うん。麻奈実は?」 俺の言葉に麻奈実はこくりと頷いた。 腰を少しだけ動かすと、麻奈実の身体がひくんと震えた。 「ぁん」と甘い声を漏らす。 頬を染めた彼女が微笑んで俺の仇名を呼ぶ。それは彼女が俺の名前を大胆にアレンジし て発明した俺の新しい名前。そして彼女は、 「だいすき」と。 ホントにずるいなぁ、と思う。 彼女に抱き寄せられてもう一度キス。 彼女の耳元で、「俺も」と囁き、身体を起こして彼女を見下ろす。 愛らしい顔、細い首、華奢な肩、綺麗に膨らんだ乳房、全部が素敵で愛おしい。 潤んだ瞳で俺を見上げている麻奈実の顔を眺めながら、いつか彼女と一生モノの約束を 交わす日が来るのかも、なんていう気の早いことを俺は考えている。 (俺たちの田村さん・おわり) **************************************** あとがき 7巻までの展開をベースに書きましたが、8巻で麻奈実がどうしたいのやらさーっぱり 分からなくなってしまった。ともかく、最終的に麻奈実ルートは無さそうなので不憫な 幼馴染みを救済しようとしたらこんなことに・・・ 356FLGRでした。 ****************************************
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/285.html
http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1289713269/412-413 9-267の続き 二階に上がったはずのあやせが見当たらないのは気になるが、ひとまず俺は自分の部屋に落ち着いた。 コン…。あやせの為に冷蔵庫から持ってきた缶ジュースを置いて椅子に座る。 さて…今日は予定もないしこれからどうするかな… 壱…「妹×妹」を始めて未クリアールートを進める 弐…「ラブリーマイエンジェル」をひとしきり眺めた後vol.3の作成に入る 参…パソコンで黒猫とのコスプレ写真データを眺めてニヤつく 四…赤城からの電話で会う事になり着替えるためにクローゼットを開ける 伍…おもむろにアキバで購入したDVDの鑑賞を始める なんだ?急に頭に選択肢が浮かんだぞ。 …まぁいい。まず壱と伍はないな。あやせが家に来てるのにこんな事をして見つかった日にゃあ……ゾクゾクするねぇ! イヤ違うだろ俺!あやせに暴力振るわれる事に悦びを見いだしてるわけ………ない…ハズ… 四…電話は…鳴らないな。大体この時間、あいつは部活に忙しいはずだ。電話なんかするヒマもないハズだ。 よって残るは弐と参なんだが、当の本人が来てるのに切り抜きをわざわざ眺める事もないよな。よってコスプレ写真鑑賞に決定! …いや待てよ。今桐乃は外出中。そしてあやせと俺だけしかいねぇ!そして手元にカメラがある!チャンスじゃね?これってあやせの生 写真ゲットのチャンスじゃね!? い、いやこここれは、ふ不純な目的じゃない。今後コスプレ写真を撮影するときの参考にすするためであって、やましい事など何一つな い! あやせはプロのモデルだし?プロにお手本見せてもらって写真写りのいいポーズを見せてもらうだけだしぃ? OK!一分の隙もない完璧な理屈だ!それにうまくすれば、あやせのセセクシーショットとかも撮れちゃったりして! 女豹のポーズで上目づかいのあやせとか…いかん鼻血が出て来た…。 こうしてはおれん。俺はデジカメを掴むと部屋を飛び出しそうとした。 ガラッ ガチャッ 背後の物音に振り返った俺の目に映ったのは、それぞれ絶対零度の瞳と地獄の業火を灯した二人が跳躍する姿だった…… 散々ボコボコにされた後、俺は二人の前で正座させられ罵声(主に桐乃の)を浴びせられた。桐乃は 「ポーズの事ならあたしに聞けばいいじゃない!」と怒っていたので、妹に女豹のポーズを取らせる程変態じゃないと言い返したら蹴り が飛んできた。 おまけに俺のお宝である『ラブリーマイエンジェル』は二冊とも没収され焼却されてしまった。中身を見た桐乃は「信じられない!この 変態!」と罵声を浴びせ、あやせは怒りと羞恥のあまりかページを開いたまま顔を青くしたり赤くしたりして無言だった。 それから数日後、手加減という物を知らない二匹の野獣から受けた傷も癒えてきた頃、あやせから一通の封書が届いた。 中には一葉のスナップ写真だけが入っており裏返すと走りがきがしてあった。 『お兄さんへ 女豹のポーズなんてはしたないポーズは絶対しませんから!』 自室でセルフで撮影したとおぼしき写真を見ていると、頬が自然と緩んできた。 写真についての詳細は伏せるが、ただ一つ言える事 やっぱりあやせは俺のラブリーマイエンジェルって事だ! 終 いつも不憫な京介にも救いを…というオチになっちゃった
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/642.html
http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1342354795/269-274 「鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしているわよ。どうかしたのかしら?」 部屋の扉を開けたら可愛い彼女が普段は掛けてないメガネをつけていたら普通は驚くだろ。 それも黒フレームで若干の吊り目気味のキツ目のメガネ、レンズの度も入ってて 黒猫の真っ白な頬の輪郭がレンズ越しにちゃんとズレてるのはポイントが高いというかマジ興奮するというか! …いやいや、いきなり発情してどうする。 「やはり貴方はケダモノね。メガネ一つで発情するなんて度し難い畜生だわ」 「いや、発情とかじゃなくて!なんでいきなりメガネなんて掛けてるんだ? お前視力そんな悪くないだろ」 「はぁ…」 黒猫は溜息を一つつくと、俺の事をメガネ越しのジト目で睨みながら靴を脱ぎ俺のアパートの室内に上がり込んだ。 濃紺のセーラー服と膝丈のスカートの黒猫が俺の部屋にいる姿はなんというか、あまり現実感がない。 黒猫は趣味はちょっとアレで、かなりめんどくさいタイプの女の子ではあるが、客観的に見れば美少女の範疇にバッチリ入る訳で。 そんな女の子が彼女になってくれてる、というのはどうにも俺にとっても夢みたいな話なわけだがそんなことを考えてたら この黒猫さんはとんでもないことをしてきた。 っていうかそこは駄目!俺の秘蔵のアレアイテムの隠し場所のーー 「これは何かしら、先輩?」 黒猫はその中の一冊を表紙を俺に見せつけるようにして突き付けてくる。 「いや、これはその、引っ越し祝いに赤城がくれたモノでー」 「『メガネ巨乳オンパレード』へえ。先輩にそういう趣味があったとは知らなかったわ。 貴方への評価を変えたほうがいいかしら」 「いや別にたまたまこういう本だっただけで俺は別にー」 「貴方はそういう女の子と付き合いたかったのではないかしら。私ではなく。 あのベルフェゴールとか、赤城瀬菜のような」 黒猫の声の成分が冷たくなる。 何か痛みを堪えているかのような声。 あ。 そうか。 俺は理解した。何故黒猫がいきなりメガネを掛けてきたのかを。 ホントにめんどくさい。 この可愛くて、いじらしくて、中ニ病で打たれ弱くてやたら自己評価の低い女の子を抱き締めながら 俺は心の底からそう思った。 めんどくさいけど、だからといって黒猫の事が鬱陶しいとかそういうんじゃなくて、めんどくさいところすら俺にとっては愛おしいというか。 「い、いきなり、何をするのかしらーー」 言葉を全部言わせない。 そんな方法を俺は一つだけ知っている。 黒猫の頬を両手で押さえながらその中の唇にキスをする。 「あっーーんくっ--んっ」 不満げな声も、キスをしながら髪を撫でたり首筋に触ったり背中に腕を廻したりしてるうちにだんだん小さくなってくる。 あれ。なんか違和感があるな。 メガネか。 俺は黒猫の顔からメガネを外すと、自分のシャツの胸のポケットに入れる。いやだってまた掛けて欲しいからな。 「先輩…メガネ」 「お前なんか勘違いしてるだろ。こんなの掛けなくたってお前は可愛いんだぜ。 それに胸だって、お前が生で見せてくれるおっぱいのほうがこんなエロ本なんかより何百倍も興奮するしな」 「…っ」 俺の腕の中で真っ赤になってる黒猫は可愛い。超可愛い。 ただでさえ色白な肌が紅潮してるのは凄くエロ可愛い。 俺はそんな黒猫の真っ赤になった耳たぶに囁く。 「お前のおっぱいだったらどんな大きさでも俺は大好きなんだぜ? 別に俺はおっぱいと付き合ってる訳じゃないんだし。お前が優しくて、思いやりがある女の子だから 俺はお前の事が好きになったんだ」 「う…せ、先輩」 涙混じりの鼻声で黒猫が俺の名を呼ぶ。 俺はまた黒猫にキスをする。顔中至る所に。グスグスいってる鼻にも、涙が溢れそうな目尻にも、切なげに歪められた眉にも。赤い耳たぶにも、熱くなってる頬にも。 キスするたびに声にならない吐息を漏らす黒猫は可愛い。超可愛い。もう可愛いなんてもんじゃないね。 黒猫は俺のシャツの背中を必死に掴んでいる。そうしていないと立ってられないくらいに興奮してるのかも。 「先輩…先輩っ…」 黒猫の声のトーンが変わってくる。 コタツテーブルの上に腰掛けてる俺の両足の間には黒猫がいる。 四つん這いになって、俺の股間に唇で奉仕してくれてる黒猫は可愛い。 セーラー服を着たまま一心不乱に俺のアレを舐めてくれてる女の子が可愛くない訳がないじゃないか。 黒猫は俺の亀頭の先端に何度もキスをしながら、竿に手を添えて愛撫してくれる。 もう片手で玉袋をやわやわと刺激してくれるのも心地いい。誰に教わったんだ。いや俺だけど。 舌先で雁首をぐるりと舐め上げてくれる黒猫の熱い鼻息が俺の腹にかかる。 ゾクゾクするような熱い快感が腰の底から登ってくる。 「黒猫…早く咥えてくれ」 「…」 黙って頷くと黒猫は唇を俺の先っぽにあてがうとそのまま口の中に吸い込んだ。 その熱い口内で俺の肉棒が溶けそうなくらい気持ち良くなる。 思わず声が出そうになるくらい。 「う…ああ、いいぜ黒猫。すげえ、気持ちいい」 アレを咥えたまま上目遣いで俺の表情を伺う黒猫に俺は答えてやる。 サラサラの髪を撫でると嬉しそうに熱い鼻息を漏らす黒猫もう可愛い。
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/582.html
題名:「沙織からの誘い」 なるようになるしかない や 私の家に来ていただけますか? と共通する世界です。 京介x沙織 18禁 ------------------------------------ このところの騒動で沙織にずいぶん負担をかけたなあと思っている頃、 一通のメールが届いた。 「京介殿、個人的に相談したいことがありますので、誠にご足労でありますが、 拙宅までいらしていただけないでしょうか?」 あの沙織が? 高級マンションでのお嬢様姿を見ているだけに、妙に期待してしまう俺だ。 承諾の返事をすぐに出して週末の十五時頃に向かうこととなった。 「さて、着いたな。携帯で知らせるか」と沙織に電話すると自動ドアが開いた。 ちょっとしたホテルみたいなエントランスに入り、所在なげに待っているとエレベーターから 沙織が現れた。 「よぉ! 来たぜ」 「こんな所まで呼びつけて、申し訳ございません。付いてきてください」 「ほいほい」とエレベーターに乗った。 ぐるぐる眼鏡ではなく、ゆったりとしたドレスを着たお嬢様スタイルだ。 どうも、沙織が緊張しているのが俺にも伝染して、無言のまま最上階へ。 「こちらです」 「ああ…。」 なんだここは。海が見え、周囲が一望できる巨大なリビングに広い部屋。 セレブだっていうのがイヤと言うほど判る。 招かれるまま、革張りのソファーに身を沈めると窓の外に雲が流れる風景に圧倒される。 こんな所に住んでみたいもんだぜ。 沙織は紅茶を入れたポットを持ってきて、カップに注いでいく。 芳香が立ち上り、ふっと気持ちが楽になる。 そして、沙織は何気なく隣に腰を下ろした。ほんわりと包まれるような温かさが心地よいな。 「それで、相談って?」 「はい。自分なりに、自分のできることを頑張ってしていても、何だかんだで京介さんが 大半を解決してしまいます」 「そうか? 大して役立ってないと思うがな」 俺こそ、沙織に尊敬してしまうことだって多いしさ。 「それで何でも自分で解決しようとしないで頼ってしまうことも、時にはいいかと思いまして……、京介さんに甘えようかと」 沙織はしなだれかかり、俺の方に首をもたげてふわっと何か誘われるような香りが漂った。 「誰だって、疲れるときはあるもんな。お前は良くやってるよ、沙織」 髪の毛をやさしくなでてやる。 「心地よいです」 午後の気だるさも相まって、蜜のような時間だ。 雲間に日差しが差し込んで来て、いい雰囲気だなあ。 紅茶が冷めないうちに飲んでしまおう。ハーブが入っているのかな? 変わった風味だった。 雲の形が変わってしまう頃、沙織は立ち上がり、するっとドレスを脱いでしまった。 午後の逆光の中、全裸だ。 度肝を抜かれているとくるっと振り返り、俺に背中を向けて密着して座り、 蛇のように首に腕を回して、濃厚なキスをしてきた。 沙織から、甘く熱い息が漏れる。 とろけるような微笑みで俺を見つめている。 「沙織…、お前」 「お嫌ですか? 京介さん。そうでなければ、いつも空回りで寂しい沙織を慰めて欲しいのです…。」 微熱を帯びた柔らかい尻が俺の股間を刺激して、困惑する。 「ここには、私と京介さんしか居ませんし、ひとときだけの事です」 またかよ!という気持ちだ。でも、沙織は交際範囲が広いようで、親しいつきあいは俺たちだけだって 言ってたっけ。 その中で男性は俺だけとなれば、仕方ないのか。 「判った。一度だけ、だからな?」 「はい…では、どうぞ…。」 沙織は、妖艶にほほえんで俺の手を弾力のある乳房に、熱い股間に導いた。 後ろからなめらかな首筋に舌を這わせ、キスをして乳房を舐め回していく。 小さく喘ぐ沙織の顔を見上げながら、乳首を吸い、舌で転がす。 沙織は、するっとソファーから落ちて向き直り、俺のズボンとパンツを脱が してフェラチオを始めた。 女性のしっとりとした指で握られ、たおやかな舌で舐められると根元に響く感じだ。 全体を丁寧に舐め上げられ、生暖かい口の中に俺のが入り、蠢く舌が亀頭をねぶり、吸われると 頭がおかしくなるくらい気持ちいい…。 だが、何だかぐっと上がってくる射精感が来ない。 「うふふ。お父様にもらったハーブが効いてるみたいですね」 「や、ヤバイ奴なのか?」 「ドラッグや脱法ハーブではありませんよ。どこでもらってきたかは知りませんけど、 灰になるまで楽しめますわ。わたしも避妊のための薬を飲んでますし、 さあ、続きはベッドの上にしましょう」 「そうか、判った」 思ったより軽い沙織をお姫様だっこして、ベッドルームまで連れて行った。 キングサイズのブルーサファイアのシルクシーツに沙織の裸身を横たえるとグラビアのようだ。 俺は、本能的に抱きつき、お互いのからだを感じ合うとめちゃくちゃにしてやりたい衝動が突き上げて くるので思うがままに乳房を揉みしだき、乳首をこね上げ、脇の下に顔を埋めてキスをし、かたちの良い 指先まで舐め上げたり、脇腹から腰、太ももまでキスして行って、きれいなふくらはぎ、足の指まで舐め てみたり、俺は謎ハーブでおかしくなってるんじゃ無いかと正気を疑う。 でも、沙織は、歓喜の表情で歌うように喘いでいた。 「どうだ、沙織。愛されているか?」 「ええ、とっても幸せですわ。京介さん」 沙織の両膝を大きく広げて、もわっとした匂いがする淡い茂みの奥を舐めている間、沙織は俺の陰茎を 握ってゆっくりしごいている。 愛液もねっとりしてきたし、もういいだろう。 「じゃあ、入れるぞ」 「どうぞ、ご存分に…」 へそまで反り返った陰茎を握り、膣口になじませて押すと吸い込まれるように中に導かれ、熱くみっちりと した肉襞に飲み込まれたような感触に背筋がゾクッとした。 腰を使って行くと沙織の腰もつられるように動き、長い足が俺の腰を挟み逃さない。 いつもより低い声であぁー、あぁーと喘ぎ、時折、息を堪えているのは軽くいってるのだろうな。 汗ばむ沙織に俺は体を起こし、沙織の両腕をつかんで浅く深く腰を使って、まんべんなく沙織の女を堪能する。 うっかり射精してしまう心配が無いから大胆にできるが下腹が熱く、尿意のような感じが高まってくる。 今までに無く張り詰めた陰茎は沙織の中に馴染んで自分の物じゃ無く、別の生き物みたいだ。 そういえば、座位ってしたこと無いなと思って、腰を落としあぐらをかき、沙織を起こして、 濡れそぼる沙織の中に下から突き上げた。 「あ、すごい…」と言いながら、沙織はキスしてきた。腰を回したり、突き上げたりしながら、 口でもつながっている感じ。 沙織は、首を下げて、俺の乳首を吸ったり舐めたりするので、淫らな気持ちになって、 "あぁっ"とか声が漏れてしまった。 「京介さん、可愛いですわ」 「ば、馬鹿、へんなことすんな」 照れ隠しに沙織の乳首を甘く噛み、乳房をこね回してやりながらも腰が止まらず、俺の陰毛は 沙織の濃い愛液でびちょびちょだ。 我を忘れて愉しんでいる間、いつの間にか夕闇が部屋を満たしていた。 沙織の光るような目が、俺を見つめ、俺の目はそれに囚われたかのようだ。 お互いの汗もべっとりしてくるような感じで俺の気力も限界に近くなってきた。 沙織の目もとろんとしてきて、はぁはぁと喘ぐばかりで朦朧としている。 ハーブの効果は切れてきて、俺の腰から暴走しそうな塊が抑えきれない。 沙織を押し倒し、正常位に戻ってラストスパートとばかりにぐだぐだとなった沙織の腰に暴力的に打ち込んだ。 沙織は呻くような、名残を惜しみ抗うような声で高まっていき、やがて沙織の中に俺のがぐっと掴まれ、 強烈な塊が陰茎を駆け抜けて、沙織の一番奥で俺は、爆発した。 目の前が真っ暗になり、意識が上下に揺さぶられる。 沙織も息を詰めたまま、時折、荒い気を吐くばかりだ。そのまま俺の意識は暗黒に飲み込まれた。 目が覚めたら、沙織が見つめていた。 「小一時間ほど、寝てしまったようですね。うふふ」 沙織がキスしてくる。 「ああ、そうだったのか。俺はもう、ヘロヘロだよ。沙織は満足したか?」 「灰に、なっちゃいました」 「まったくだな、アハハ。まあ、なんだ、シャワーでも浴びるか」 「そうですね、でも、腰が抜けてしまって…。」 「だっこして連れて行ってやんよ!」 たいへん腰が頼りなかったが、これまた洗練されて広いバスルームで軽くシャワーを浴びて、 ボディシャンプーでいちゃいちゃと洗いっこして、すっきりして着替えた。 「沙織もさ、こんなにストレスをため込む前に俺たちにできることで、発散していこうぜ」 「今更、恥ずかしくなってきました。でも、京介さんが居てくれて良かった」 やさしく抱擁して、和んだところで今日はお別れだ。 一緒にエレベーターで降りて、エントランスに来た。 「遅くなると桐乃がまた不機嫌になるからな」 「ほんと、兄妹仲がうらやましいですわ。最後にこれを…」 「カード? なんだこりゃ?」 「カードキーです。京介さんがいつでもここに来られるように、です」 「変な意味じゃ無く、役立つときもあるだろうからもらっておくよ。 じゃあな!」 「ごきげんよう。また、皆さんと遊びましょう」 「ああ、またな!」 沙織に見送られ、俺はマンションを出た。 自動ドアを出ると夕凪が心地よい…が、ずいぶん腹が減ったよ。 足早に駅に向かいながら、俺は誰かを選ぶことができるのだろうか、 それとも強引に決められちまうのか?なんて当て所なく考えて居たはずが、 いつの間にか夕飯のメニューは何だろう?に支配されて、帰宅した。 ---------------------------------- おわり。
https://w.atwiki.jp/vip_oreimo/pages/282.html
「春眠暁を覚えず」とはよく言ったもので、春の訪れと共にやってきた暖かな陽気は、俺の中から眠気だけを効率良く引き出してくれる。 暇潰しのために持ってきた文庫本も、今は睡眠促進剤としてしか機能を発揮していない。 これで隣に可愛い女の子でもいれば、少しは違ったのだが、生憎今そこにいるのは無駄に爽やかなムカつくイケメン野郎だった。 「俺の隣にいるのが、なんでお前なんだろうな」 「おい、高坂。口を開くたびに俺に当たるのはやめろ。俺の繊細な心はもうボロボロだ」 「なら、粉々に砕いてやるよ」 無駄に爽やかなムカつくイケメン野郎――赤城浩平は、そんな心にも無いような反論をして、俺のイライラを加速させた。 この余裕な態度も鼻につく。まったく、妹の頼みとなると途端に元気になりやがって。 「お疲れさま~。きょうちゃん。赤城くん」 「おう、麻奈実」 「こんにちは、田村さん」 高校時代と変わらない、他愛の無い言い合いをしている野郎二人の下に、眼鏡をかけた地味な幼馴染――田村麻奈実が少々大きな荷物を持ってやってきた。 麻奈実は、孫のケンカを見守るお婆ちゃんのような笑顔を浮かべ、自宅から持ってきた温かい緑茶を差し出す。 それを飲み、ほっと息を吐くと、さっきまでの不平不満も幾分か減少した。 「せっかくのお花見なのに、そんな態度じゃ桜がかわいそうだよ~」 「そうだぞ高坂。田村さんの言う通りだ。少しは空気を読め」 「その言葉、熨斗(のし)付きで返してやるよ。このドシスコン」 「妹が好きで何が悪い!!」 俺の軽い挑発に、赤城は必要以上に乗ってくれやがった。まったく、イチイチうるさいヤツだな。 怒り心頭の赤城は麻奈実に任せ、俺は無視を決め込んだ。そんな俺たちの頭上からは、白みのある淡紅色の花弁が、ひらひらと何枚も舞っている。 「それにしても……」 俺は視線を少し上げ、ここら一帯の風景に目を向けた。あちこちに生えたソメイヨシノには、花弁が五枚合わさってできる花が幾百幾千と咲き誇っていた。 「美事なもんだ」 事の発端は半月ほど前。ホワイトデーが明けて数日経ったときだった。 その時の俺は、ひどく疲れ切っていた。主に精神的に。 妹やその友達、幼馴染や後輩から貰ったチョコのお返しのため、普段では考えられないほど散財したからだ。 あまり金の掛からないヤツもいたが、妹を筆頭に、ひどく金を使わせる輩もそれなりにいたからな。 まったく、「バレンタインデーのお返しは三倍返しが基本」なんて言い出したヤツをぶん殴りたくなるぜ、はぁ。 「ただでさえ辛気臭い顔を、さらに辛気臭くしてどうすんのよ」 「ほっとけ」 その辛気臭くなる原因を作り出した張本人が、俺に罵詈雑言を浴びせてきやがった。少しは労ってもよくね? そんな中で溜息を吐いたものだから、流石の妹様も俺を心配したようだ。今度は少し優しげな言葉を掛けてきてくれた。 「ホントどうしたのよ? 具合でも悪いの?」 「体調は悪くねえよ。ただ、財布の中がさびしいだけだ」 「どーせまた、エロいもんを大量に買い込んだんでしょ」 どーせってなんだよ! 俺はエロ関連にしても大量に金は使わねえよ! はぁ……。お前の中の俺は、どんだけエロマジンガーZなんだよ。あんまりいじめると、パイルダーオンすっぞコラ。 「ちげーよ。律儀にホワイトデーの“三倍返しの法則”を守った結果だ」 「はぁ? あんた、そんなに何人からもチョコ貰ったの?」 「あぁ、今年は多かったな。お前だろ。麻奈実、黒猫、沙織に、あやせ、加奈子、ブリジット。あとは瀬菜か」 「へ、へぇ~。それはそれは……随分とおモテになるようで……」 「あ? 馬鹿言ってんじゃねえよ。あれ、全部義理チョコ……」 つまらない勘違いをしている妹に反論しようとしたが、俺はそれをやめた。やめざるを得なかった。 だってさ、桐乃の体から赫怒(かくど)の炎が立ち上ってんだよ。幻視かも知れんけどさ。そんな中、言葉を継げねえって!! 「ど、どうかしたか?」 「別にぃ~……。どうもしないわよ。あんたが誰からいくつチョコ貰おうが、あたしの知ったことじゃないしぃ~……」 ん、なんでかは知らねえが、桐乃様は大変お怒りのようだ……。どれだ? 俺のどの発言が逆鱗に触れた? 俺が怒りの原因を考えている中、桐乃はリビングを出て行き、怒りに満ちた足音を響かせて部屋に戻った。 「どうしたもんかね~?」 俺は自室で、そんな情けない声を出していた。 原因はわからんが、ウチの妹様はとかくお怒りだ。この状態を長引かせるのは、俺にとっても非常によろしくない。 つまりだ、何らかの方法でお姫様のご機嫌を取ってやりゃにゃあいかんわけだ。はぁ、迷惑な話だよ……。 そんな泣き言を言っても、何も始まらない。俺は無い知恵を絞って、桐乃が喜びそうなことを考えた……が、女心なんざ微塵もわからん俺に、妙案なんぞ思い浮かぶはずも無い。 となるとだ、誰かの知恵を借りるべきかも知れん。桐乃のことをよく知っている女の子に。 候補としては……黒猫か、沙織かあやせといったところか。 たとえば黒猫に相談した場合…… 『黒猫。桐乃のことで相談があるんだが……』 『どうして私が、あの女のことで力にならなければいけないのかしら? そんなのは放っておきなさいよ。それより先輩……』 むぅ。なんだかんだ言いつつも、あいつは力になってくれるだろうが、無駄に時間がかかる気がするな。 この問題、できるなら今日中に解決したいし、黒猫はダメだな。 なら、沙織に相談した場合は…… 『沙織。桐乃のことで相談があるんだが……』 『はっはっはー。相変わらず仲がよろしいですな、お二人は。して、相談とは……』 きっと口元をω(こんなふう)に歪ませて、俺の悩みを解決してくれるだろう。 だが、こう毎度毎度あいつに頼るのもなぁ……。沙織に悪いし、下手に沙織に頼る癖がついちまうのもよくない。沙織も却下した方がいいか。 となると、あとはあやせに相談した場合だが…… 『あやせ。桐乃のことで相談があるんだが……』 『お兄さん。私、言いましたよね? 桐乃に手を出したらどうなるか……』 ダメだダメだダメだ! 桐乃のご機嫌取りどころじゃねえ! あやせにこの話をしたら、俺は修正、もしくは粛清されちまう!! いくら生意気な妹のためとはいえ。俺の命を賭ける気にはならない。これは絶対にダメだ! ああ~、どうすりゃいいんだろうな。 頭をぽりぽり掻きながら、俺は椅子の背もたれに思いっきりもたれかかった。そのとき、お袋が町内会で貰ってきたカレンダーが俺の目に入ってきた。 「そうだ!」 桐乃に効くかはわからんが、俺は妙案を閃いた。 というわけで、俺は桐乃のご機嫌を取るために「花見」という案を思いつき、今はこうして、地元の花見スポットで場所確保の任についているというわけだ。 最初は渋った妹様だが、説得の甲斐あってなんとか了承してくれた。 赤城がいるのは、こいつも花見をするつもりだったらしいので、瀬菜を誘うついでにこいつも連れてきた。麻奈実は俺から誘った。 「妹の機嫌を取るのも、楽じゃねえ」 「そう言うな、高坂。これもお兄ちゃんの宿命だ」 俺があくびをかみ殺しながら愚痴を漏らすと、隣の最高純度のシスコン野郎がそんなことを言ってきやがった。 お前にはそうかもしれねえがな、俺はそんな役割は御免だよ。 「それより高坂。瀬菜ちゃんたちはいつ来るんだ?」 「ん~、もうすぐじゃねえか。約束は12:30だからな」 「お、もう12:00過ぎてんのか。早く来ないかなぁ~」 赤城、その気持ち悪い声を出す作業を今すぐやめろ。今、俺はお前を無性に殴りたくて仕方ないんだ。 俺のそんな心情は露知らず、赤城は麻奈実に話しかけている。 「ところで、なんで田村さんはこんな早めに来たんだ?」 「お弁当はできたし、いつまでもきょうちゃんと赤城くんだけじゃさみしいでしょ?」 麻奈実の言葉を聞いた赤城は「さすが田村さん!」なんて言って感激してるが、勘違いすんなよ? 麻奈実のことだ。いつまでも孫だけにしておくのはイヤだったんだろう。さすがだよ、お婆ちゃん。 おい、赤城。麻奈実との距離が近ぇよ。今すぐ離れろこのクソシスコン。 「げっ」 俺ら同級生組が、そんな馬鹿なことをやっていると、桐乃、黒猫、沙織、瀬菜がやってきた。黒猫の後ろには、その妹たちもいた。 「早かったな」 「いやはや、場所取りご苦労! お邪魔しますぞ」 そんな快活な声を出して、沙織がビニールシートの中に入ってくる。バジーナ口調だからわからんかも知れんが、沙織はいつものヲタ服じゃないぞ。 淡色のTシャツに薄手のジャケット、細身のジーンズにブーツという服装だ。沙織の立派なボディラインがわかるファッションだな。 だが、顔にはいつものぐるぐる眼鏡なため、口調はアレなまんまだが……。 黒猫も、今日はゴスロリ服じゃない。春らしいワンピースの上にカーディガンを羽織っている。いつぞやの白猫を思い出す服装だ。 妹達は子どもらしく、動きやすさを重視したような服装。可愛く見えるのは、元が良いからだろうな。 瀬菜は瀬菜で、沙織に近い格好だが、なんというか……少し地味だな。あとキャスケットも違う点か。 んで、ウチの妹様は相変わらずばっちり決めてやがる。人気の読者モデル様は一味違うな。 「高坂先輩、お兄ちゃんとの時間はどうでした……? フヒヒwww」 「相変わらずだな、瀬菜」 ホンット、こいつは相変わらずだ。人選を誤ったか? 俺が瀬菜の処遇について考えていると、沙織に話しかけられた。 「して、京介氏。そちらとこちらの眼鏡のご婦人方は?」 「ああ、お前は初めてだったか? こっちのおとなしそうなのが幼馴染の田村麻奈実。そっちの気持ち悪いのが後輩の赤城瀬菜だ。その隣にいるのは瀬菜の兄貴の赤城浩平」 「おい、高坂! 瀬菜ちゃんに向かって気持ち悪いとは……」 「うるさい黙ってろ殴るぞコラ」 俺が激昂した赤城を押さえている間、沙織は麻奈実と瀬菜に自己紹介を始めた。あのぐるぐる眼鏡を外して……。 「はじめまして。わたくし、京介さんと桐乃さんのお友達で、槇島沙織と申します」 「は、はじめまして。田村麻奈実……です」 「高坂先輩の高校の後輩の赤城瀬菜です!」 麻奈実は、いつかあやせに自己紹介されたときのように、沙織の素顔に見惚れていた。 一方瀬菜は、一切物怖じせずに元気一杯挨拶をしていた。瀬菜、お前すげえよ。 簡単な自己紹介が終わり、沙織が眼鏡を掛けなおすと、もう一団体お客様がやってきた。 「こんにちは、お兄さん」 「うーす、来たぞ」 「マネージャーさん、お久しぶりです」 あやせ、加奈子、ブリジットの三人だ。俺はあやせだけに声を掛けたんだが、あやせがあとの二人も誘ったらしい。 十二人で座るには、ビニールシートが少々狭かったが、まあいいだろう。 「ちょ、ちょっとあんた。何人に声掛けたのよ?」 「お前に黒猫、沙織に麻奈実、あと瀬菜とあやせだな。黒猫の妹と加奈子、ブリジットは想定外だが……」 「いくらなんでも声掛けすぎでしょーが!」 「別に良いだろ? 大勢の方が楽しいんだからさ」 「そ、そりゃそうだけど……」 よくわからんが、ウチの妹様はこのメンバーにご不満があるらしい。だからって、今さら「帰れ」とも言えんのはわかってるだろうからな。ここは我慢しとけ。 さて、これだけの人数が集まるのは、俺としても想定外だった。だから、気になることが出てくる。 「食い物、足りるかな。麻奈実の弁当もあるとはいえ……」 「ご心配なく。わたしもお弁当を作ってきましたから」 「私も作ってきたわ」 俺の心配そうな声を聞き、あやせと黒猫が、それぞれ重箱を出してきた。 麻奈実はそれをてきぱきと並べていく。中身はどれも美味そうだった。 「んじゃ、大丈夫かな。ほれ、赤城。皆にコップ配れ」 「はいよ~」 俺は赤城に指示を出し、皆にコップを配っていった。コップを受け取った者から、思い思いにジュースやお茶を注いでいく。 「全員に行き渡ったか~?」 俺の声に返事は無い。周りを見渡すと、皆ちゃんとコップを持っていた。 それを確認した俺は、高らかに声を上げる。 「うし。じゃあ皆、コップを掲げろ~。せぇ~の……」 「「「「「「「「「「「「かんぱ~い♪」」」」」」」」」」」」 俺の合図と共に、紙コップが掲げられ、春の宴が始まった。 桐乃は、はじめこそ不満そうな顔をしていたが、今はあやせと共に弁当について歓談中だ。 黒猫は、下の妹が加奈子とブリジットに反応したようで、上の妹と一緒にそちらで話に花を咲かせている。 沙織は、麻奈実と瀬菜が積極的に話しかけているようで、口元をω(こんなふう)にしながらガールズトーク中だ。 俺はというと……。 「ま、こうなるわな」 「おいおい、高坂。それは俺に失礼じゃねえか。そんなに俺が嫌いか?」 「気持ち悪いこと言うな。お前とは朝から一緒だったんだぞ。なんで皆が来てからもお前と一緒なんだよ」 「友達甲斐の無えヤツだなぁ」 ま、こんだけ女の子がいるんだ。男だけあぶれちまうのも致し方ない。不満はあるがな。 俺と赤城は隅の方で、お茶を片手に静かにしていた。 それにしても……。俺は周囲の光景を眺める。 ここには色んな人間が集まり、桐乃の『表』と『裏』の友人とか、俺の知り合いとか関係なく参加している。 少しだけ懸念もあったが、こうやって楽しげな状況を見てると、それは杞憂だったと思い知らされた。 「女三人寄れば姦しい」とは言うが、この場所はまったくその通りになっていた。けど、みんな笑顔だ。 桜が舞い、美味いメシを食べ、話に花を咲かせているこの光景を見ていると、いつぞやも感じた思いが心に浮かび、思わず口から出てくる。 「悪くねえ」 「ん? なんか言ったか、高坂」 「なんでもねえよ」 ああ、悪くねえ。こんな日も、たまには悪くねえ。 それが、俺の今日の感想だった。 おわり
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/201.html
http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1281447547/249-253 6巻3章 桐乃視点 沙織の家から帰宅後 「ただいま」「ただいまーっと」 沙織のマンションから帰宅するとすっかり夕方になっていた。 ほんとは門限ギリまで遊んでたかったんだけど、 『申し訳ないでござる! 皆が来てくれたこと拙者は無常の喜びではあるのですが、前々から決まっていた用事でして、どうしてもキャンセルするわけにはいかんのでござるよ』 って、沙織がどうしても抜けられない用事があるからと平謝りしてきて、少し早い時間にお開きになったんだよね。 約束も無しにいきなり押しかけたのはあたしたちなんだからそんなの仕方無いのに、必死に謝るところは沙織らしいよね。 まっ今度はきちんと約束して遊びに行けばいっか。 リビングへ移動するがお母さんの姿はなかった。鍵もかけずにどこ行ってんだろ、近所のおばさんとこにでも行って話しこんでんのかな? 「たく、鍵もかけずに井戸端会議でもしてんのか」 冷蔵庫から麦茶を出しつつ兄貴も同じようなことを言っている。 「あ、あたしのも頂戴。氷も入れてね」 「へ~へ~」 ソファの定位置にドっと腰掛けてあたしのも要求する。 「ほらよ」 「ん」 受け取った麦茶を一口あおってようやく一息ついた。 あー生き返る。夏が近くなってさすがに長時間移動すると疲れるわ。沙織んち行く前の坂、すんごい長くてけっこうきつかったしなぁ。 黒いのなんて、はぁはぁ肩で息してたし。体力足り無すぎ。 「ふぅ。さすがに長時間移動すると疲れるな。あの坂ちいと長すぎだろ」 隣に座って麦茶を飲んでいた兄貴が似たような感想を漏らす。 …………同じ感想持ってんじゃないっつの。なんかカユくなってくるじゃん。 「キモ」 「なんでだよっ!? 疲れたって言っただけじゃん」 兄貴のつっ込みは華麗にスルーしてあたしはかまわず会話を続けた。 「つうかさー、ぐるぐる眼鏡の家すごかったね」 「ん? ああそうだな。まさかマンションひとつまるまるとは恐れ入ったぜ」 「そこじゃなくてぇ、そこもだけど――あのフィギュア部屋! はぁ~あたし一生あそこで引き篭もってていいくらいだった」 沙織に見せてもらったフィギュアコレクション。今でも瞼に焼き付いて離れない。 間違いない、あそこはあたしの理想郷だわ! あぁメルルちゃん、あるちゃん。他のみんなも綺麗に飾り立てられててチョーかわいかったよぉ、はぁはぁ。 「おーい、帰ってこーい」 兄貴の呼ぶ声でトリップしてたあたしは我に返った。チッ、邪魔しないでよ。 「おまえほんと好きな。似たようなフィギュア押入れの中にたくさん持ってんのに」 「あんた全ッッ然分かってない! メルルちゃんたちがああやって超かわいい姿で微笑んでくれてるのを見るのが最高なんじゃん。 愛らしいメルルちゃんたちをあたしの押入れで見るのとぐるぐる眼鏡んちで見るのとでも、同じフィギュアでもそれぞれ違った楽しさがあんの。持ってるとか持ってないとか関係ないっつ~~の。」 「ふ~ん、そういうもんかね」 兄貴はなにやら半目になって麦茶を飲みつつ受け答えする。 む、どうやらあんま分かってないようね。あとで部屋に呼びつけてきっちり教えこんでやる。 「そだ、おまえプラモをプレゼントすんのに組み立ててくるとか――あれには驚いたぜ」 「だ、だって作った方が手間かかんないじゃん。はぁ、モデラーの心って分っかんないわ」 沙織のやつ超愕然としてたし。可愛くデコってもあげたのに何がいけなかったんだろ? 「今度は作らずにプレゼントしてやろうぜ。なんなら一緒に作ってみるってのはどうだ?」 「あ、それいいね。なんか面白そうかも」 「多分たっぷりとモデラー講義がついてくると思うがな……」 兄貴はげんなりと口元をヒクヒクさせている。 「うぐ……。やっぱ少し考える」 ぐるぐる眼鏡のやつ三十分以上も兄貴に講釈たれてたしなぁ。そばにるあたしや黒いのも危うく巻き添えくらいそうになったし。 なことを思い返していると、 「俺はやっぱコスプレが楽しかったかなぁ」 コスプレした話を振ってきた。てかなんか鼻息荒くなってて少しキモいんですケド。 「ふっふっふ。俺の漆黒の姿、ぶっちゃけ超似合ってたし。沙織のヤツもめっちゃ褒めてたもんねー。コミケとか参加してたらぜってぇ人だかりが出来ちゃったりするねっ」 歯をニカッと見せながら子供みたいにはしゃいで話してる。まぁ似合ってたのは似合ってたけどね。 黒いのなんかチラチラと兄貴のこと何度も見てたし……。 「はいはい言ってなさい。まったく普段カット千円とかに行ってるモサ男が初めて美容院行ってイメチェンしたみたいな気持ち? よくある典型よね。正直恥ずかしいからさぁ、さっさとテンション戻してくんなーい?」 「………………」 な、なんかショボーン(´・ω・`)としちゃった。ちょ、ちょっと言い過ぎたかな? 分かってきたことなんだけど兄貴ってけっこ泣き虫なんだよね。 涙腺が弱いとか? 別に男のくせに泣くのはダメなんて言わないけどさー、もうちょっとこう……。 あ~~もう、なんかいじけたような顔しちゃてるしぃ! 「で、でも似合ってたのは確かだからそこは認めてあげてもいいよ。あたしもコスプレ楽しかったし、黒いのの写メもたっぷり撮れたし。またやってもいんじゃん」 仕方無いからちょっとだけフォローすると、兄貴は「おっ」と何か思い出したように笑顔を向けてきて、 「そういや撮ってたな。黒猫の写メ俺にも見せてくれよ」 「ウザッ。あんたにはぜぇ~~~ったい見せない」 「そうですか……」 なにいきなり元気になってんのよこのバカは! あーあ気遣って損した。 「しっかし――俺らのコスプレも最後は沙織に全部持ってかれちまったな」 兄貴はさして気にした様子もなく今度は沙織の話に水を向けてくる。 「まぁね、あれには驚いたわ。美人とは分かってたけどあそこまでとは……」 ほんとすんごい美人だった。身長も高いしスタイルもいいからなおさら引き立つ綺麗さっていうの? 正直なところちょっと悔しい。 「いやぁ美人とは俺も思ってたんだけどよ、あそこまで想像の範疇超えてくるとはなぁ」 なんか思い返してニヤけてるし。あたしと話してんのにこの態度、イラッっときたね。 なわけで――、ガスッ! 思いっきり踵で足を踏んづけてやった。 「痛っ! 何すんスか、桐乃さん!?」 「ぐるぐる眼鏡のやつが美人だったからってデレデレすんな! キモッ」 「くぅ~~、いいじゃねえかよ別に」 「よくない! 友達が綺麗だったからって何いきなり態度変えてんのよ。キモキモキモ――ッ!」 「お、俺は別に態度なんて変えてねーよ。ただ綺麗だったから綺麗だと素直に思っただけで」 「フン、どうだか。だいたい、あんたブス専じゃなかったの?」 「てめぇこのヤロ誰のこと言ってんだぁ!」 「べっつにぃ~」 鼻の穴大きくしてまたムキになるし。いいからあたしの方を向いてろってのよ。 そっぽを向いて麦茶をあおる。 ―――………ん? あれ? な、なんでそうなんの? べ、別にこいつが誰とどうなろうと……! 「ったく。あ~他にはあれだな、ミニ四駆。あれには燃えたね、時間あったらサーキット走らせてもらってたなぁ。ぜってぇ超楽しいぜ」 少々ケンカ腰になっていた会話を元に戻そうと兄貴は別の話を切り出してくる。 だけどあたしは――、 「……ねぇ」 「アバンテってのはよく知らねえが――、あん? どうした?」 「あんたさー、マンションの入り口でサバゲーしてたぐるぐる眼鏡がモデルガン向けてきたときさ」 「え?」 「あんた、両手広げておもいっきし『やめろっ!』って――」 見ると兄貴は渋いお茶飲んだみたいに眉にしわを寄せて顔を紅潮させてっている。……変な顔。 「あ、あれは、しょうがねえだろ! いきなりだったし」 「あはは。シスコ~ン」 真っ赤になってるのが面白かったから、足を伸ばして兄貴の足をツンツンしてからかう。 「だ、誰だってああするっつの」 「ふ~ん、どうだかね」 知ってる。もし、黒いのに銃口が向けられても、あんたはきっとそうすんだろね。 「地震のときもあたし抱き寄せて何しようとしてたのよ。あぁ~ヤダヤダ」 「ガラスケースが倒れてきたらアブねえって思ったんだよ! フィギュアで誰かさんはトリップしちまってたしな!」 「そのあともあたしの手を引っ張って離そうとしなかったしィ~」 「おまえがいつまでも『メルルちゃんが~』とか言って逃げようとしなかったからだろうが!」 「本当はあたしと手をつなぎたかったんじゃないの~? 正直に言ってみなさいよシースーコン」 また足をツンツンしてからかう。 「だ~からっ。っく、このぉ~」 あたしの挑発に怒ったのか兄貴はソファから立ち上がるとそのままリビングの出口まで向かっていった。 「フンッ。俺はもう部屋戻っかんな」 「フンッ。あっそ」 兄貴が居なくなったリビングで、残った麦茶を飲み干してからソファに仰向けになって寝転ぶ。 数日前に、ここで取った電話でのやりとりが記憶の水底から浮かびあがってくる。 『おまえさ、俺のことどのくらい好き?』 いかにもな軽い口調だったし、忙しかったからさっさと切ったけど―― 「あれ……どういうつもりで聞いたのよ? バカ兄貴」 兄貴の上がっていった二階を見上げて、あたしは吐き捨てるように一人呟く。 胸の奥底で、また〝なにか〟がコトリと揺れていた。
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/535.html
http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1311182440/56-65 ・あやせ×京介 ・ヤンデレ描写あり ・微エロあり 『お兄さんに相談があります。いつもの児童公園で16時に待ってます』 女子高生とは思えない程、飾り気の無いメールの送り主は…あやせである。 比較対象の女子高生とは、加奈子の事なんだが、あいつのメールは装飾過多で最早何が書いてあるのか理解できない。 しかし、俺がメールアドレスを知っている身近な女子高生や、元女子高生は、むしろあやせ寄りなメールの方が多い。 テレビや雑誌の特集ってのは、嘘とまでは言わねえが、取材方法か報道姿勢に問題があるんじゃないか? まぁ俺にそれを確かめる術はねぇし、偶々俺の知り合いの女子が簡素なメールを送る傾向にあるだけかもしれないしな。 などとメールを確認しつつ、くだらない事に思考を巡らせながら児童公園へと向かう。 「よっ、あやせ」 「お久し振りです、お兄さん」 「しかし、あやせに呼び出されて、この公園に来るのも何だか久しぶりだな」 もう半年以上は経つのだろうか、黒猫との関係であやせに拒絶され、あれ以来なんとなく疎遠になってたんだよな… 俺も初めて彼女が出来て浮かれてたとはいえ、なんとも苦い思い出である。 「え、と…あやせ、それで相談ってのは何なんだ?」 「挨拶も早々に本題を切り出すなんて、昔の事を思い出してバツが悪くなったんですか?」 こえーよ!女ってこえーよ!いや、この場合、あやせが恐ろしいのか? この年頃の女子ってのは、異性の心の機微を感じ取る力が強いって誰かが言ってたけど、その物ズバリ当てられたよ! 「ふふ、冗談ですよ、お兄さん」 てへ、と自分の額を小突くジェスチャーをするあやせ。 ラブリーマイエンジェルあやせたん、やっぱり可愛すぎるぜ! そんなやり取りが、なんとなく昔に戻れたような錯覚を引き起こし、すっかり固くなってしまっていた心の内をほぐす。 あやせはそれを見越してこんな小芝居を打ったのだろか?いや、そりゃ考え過ぎか。 「それで相談なんですが、高校生になって、思ったよりも学校の授業が難しいんです。 今のところは、なんとかついていく事が出来ていますが、このままモデルのお仕事と、学業を両立できるか心配で…」 シュンとした様子で語尾を濁すあやせ。 確かに高校の授業ってのは、2学期に入った辺りから難しくなってくる。 俺の場合、部活なんかの課外活動は、ゲー研で文字通り息抜き程度にしかしてなかったが、あやせはモデル業との両立である。 もっとも我が妹である桐乃みたいに、趣味に部活にモデル活動もこなした上で、勉強だって出来るっていう完璧超人も居るけどよ。 まぁ桐乃の場合は、天才とかそうゆうんじゃなくて、並々ならぬ努力の上に成り立っている完璧っぷりなのだ。 もっとも以前の俺は、そんな努力を露程も知らずに、何かにつけて自分と比較される桐乃を疎ましく思っていた時期もあった。 そのせいで桐乃には寂しい思いをさせちまったが…もしタイムマシンなんてモンが有るなら、過去の自分をぶん殴ってやるね。 おっと、いけねえいけねえ、今はあやせの相談を受けてるんだから、あやせに集中しなくちゃな。 「じゃあ予備校…は、まだ早いか。塾とかはどうなんだ?」 「はい。塾も考えたんですが、モデルのお仕事の都合上、決まった曜日に授業を受ける形だと不都合がありまして…」 そりゃそうか、いくら塾に通って勉強したって、歯抜けで出席してたんじゃあ効果が高いとは言い難い。 「じゃあ、家庭教師を使うってのはどうだ?」 俺の提案にあやせの顔が、パァッと明るくなる。 「はい!実は、お兄さんが家庭教師をしていると聞いて、もし良ければお願いできないかなと思いまして」 満面の笑みを浮かべ、熱っぽく語るあやせ。 しかし何処で俺が家庭教師してるって知ったんだ? 加奈子から聞いたなら間違いなく桐乃が黙ってないだろうし…あ、そういやあやせは、麻奈実のヤツと仲良かったんだよな。 元々俺に家庭教師の話を持ってきたのは麻奈実なのだから、麻奈実から話を聞いていたっておかしくはないか。 まだ家庭教師歴一ヶ月強とキャリアには不安があったものの、無事に加奈子の成績が上がった事で気をよくしていた俺は 「ああ、俺でよければ力になるよ」 と、あやせの家庭教師も受け持つ事に決めたのだった。 「では、急で申し訳ありませんが、お兄さんの都合がつくのであれば今週の土曜日からでもお願いできますか?」 「ああ、土曜日は授業を取って無いから予定は空いている。じゃあ土曜日にお邪魔するよ」 「はい!じゃあ、時間は12時でいいでしょうか?」 「ん?お昼時か、じゃあ昼食は済ませて行った方がいいな」 「あ、いえ、急な申し出を受けて下さったお兄さんにお礼の意味も兼ねて、お昼をご馳走したいんですけど、駄目でしょうか?」 ラブリーマイエンジェルあやせたんの手料理ktkr!!! って願ってもないあやせたんの申し出ではあるが、そこまでお世話になってしまっても良いものなんだろうか? しかし、長らく疎遠になっていたあやせからの厚意を無碍にする方が失礼なのではないのか? せっかくあやせから歩み寄ってくれたんだ、ここは素直にあやせの手料理をご馳走になるとしよう。 「ああ、あやせの手料理楽しみにしてるな」 「え?私の手料理だなんて一言も言ってませんけど?」 満面の笑みで答えた俺に対し、きょとんとした顔で返すあやせ。 うわ、これは恥ずかしい。 まったくもって期待が先走った早とちりである。 「ふふふ、冗談ですよ、お兄さん。パスタを作ろうと思っていますが、お兄さんは好きなパスタありますか?」 本日二度目となるあやせの小芝居に踊らされる。 あやせのヤツしばらく会わねーうちに新しい技を覚えやがって…まったく末恐ろしい女だぜ。 「そうだな、丁度最近トマト風味の唐辛子が入ったマカロニみたいなヤツにはまってるんだ」 「ペンネアラビアータですね。解りました、楽しみにしてて下さい」 「おう、楽しみにしてるぞ。じゃあ土曜日の12時にお前の家に行くからな」 「はい、よろしくお願いしますね。せ・ん・せ・い・♪」 などと、冗談めかして言うあやせと別れ、帰路につく。 携帯を取り出し、時刻を確認すると、既に18時を回ったところだ。 我が家の夕食は決められた時間を逃すと、外食するものとして用意されないので早く帰らなくてはならない。 まぁどうせカレーなんだけどな…とひとりごちている京介の背中を見送る少女がポツリと言葉を漏らす。 「ふふふ…お兄さんってば笑顔と食べ物に釣られるだなんて、ホントチョロいんだから…」 「ここに来るのも久しぶりだな」 あやせの自宅を前にしてさほど遠くは無い過去に思いを馳せる。 思えば以前は全く信用されてなくて手錠をはめられたんだったな…って、まさか今回も手錠をはめられるんじゃないのか!? いや!期待してないからな!俺はM男じゃない!…と思う。 インターホンを押すと、すぐに玄関が開き、扉の奥からあやせがヒョコりと顔を覗かせる。 「いらっしゃいませ、お兄さん」 「よう、あやせ。お出迎えは有り難いんだが、インターホンを押してすぐに顔を出すのは流石に無用心なんじゃないのか?」 「ふふ、大丈夫ですよお兄さん。お昼御飯の下拵えを終えて休憩していたら、リビングからお兄さんの姿が見えたので玄関で待ってたんです」 と、満面の笑みを浮かべるあやせ。 「お、おう。そうか」 と、あやせとは対照的にぎこちない反応しか返せない俺。 だってしょうがないだろう?いきなりあんなに眩しい笑顔を向けられたら男だったら誰だってキョドるに決まっている。 「ささ、上がってください。パスタの方は茹でて和えるだけですぐに出来ますから」 「おう、じゃあおじゃまします」 リビングに通された俺は、案内されたダイニングチェアーに座る。 既にテーブルの上にはつけ合せと思われるサラダボウルとピッチャーに入ったグレープフルーツジュースだろうか?が並べられている。 カウンターキッチンの向こう側に目をやると、エプロン姿のあやせが鼻歌交じりに料理の仕上げに取り掛かっているようだった。 そういえば、あやせのご両親の姿が見えないが留守なのだろうか? まぁあやせの父親は代議士であり、母親もPTA役員をしているとの事だったので、土曜であっても休日とは限らないのだろう。 「おまたせしました」 「お、美味そうだな」 あやせの持ってきたパスタは、鮮やかな赤色をしており、取り分けてくれたサラダの緑と相まって非常に食欲をそそる。 それに高坂家の食卓では、カレーの茶色と御飯の白が色の大半を占めているため、感慨もひとしおである。 ふとあやせの方に目をやると、あやせの皿には黄色いオムレツが乗っていた。 「あやせはパスタじゃないのか?」 「はい、私は辛いのは苦手なのでオムレツとサラダをいただきます」 「そうか、手間をかけさせちまって悪いな」 「いえ、お兄さんに好きな物を食べて欲しくて作ったので、遠慮はしないでください。 それでは冷めてしまう前にいただきましょう」 「ああそうだな、いただこう」 「「いただきます」」 日本人が食事の前に行う、食べ物となった数々の命に礼を示す儀式を済ませ、さっそくパスタを口に運ぶ。 トマトの酸味と甘味、ピリリとした唐辛子の程よい辛味のハーモニーが素晴らしい。 箸休め代わりのサラダも瑞々しいサニーレタスや、程よく茹で上げられたグリーンアスパラがドレッシングとよくあっている。 「こっちのサラダも美味いな。これはなんてドレッシングなんだ?」 「刻んだ玉葱を軽く炒めた物にお酢と油を入れてお塩で味を調えて、刻みバジルを少しだけ入れるんです」 「凄いな!こんな美味いドレッシングを作ったのか」 麻奈実も料理の腕前はたいした物だが、洋食に関してはあやせの方が何段か上を行っているだろう。 出された料理に舌鼓を打ち、料理の感想や、学校での出来事など談笑していると、あっという間に食べ終わってしまった。 「はい、お兄さん。グレープフルーツジュースです」 「お、悪いな」 「グレープフルーツは、とっても体に良いんですよ。それにフルーツは脂肪になりずらいので体型維持にも向いてるんです」 と、女の子らしい説明をつけ加えてくれる。 グレープフルーツジュースも酸味が強すぎず、程よい苦味がアクセントとなっていて飲み飽きない味だった。 「それでは片付けてきますね」 「いや、ここまで美味しい料理をご馳走になったんだ。片づけくらい手伝わせてくれ」 「はい、では食器を運ぶのを手伝ってください。食器洗い乾燥機に入れるだけなので後片付けは簡単なんです」 ペロっと舌を出し「便利な世の中になりましたよね」と悪戯っぽく微笑むあやせ。 俺は、その赤に近いピンクの舌に思わず見とれてしまっていた。 後片付けを済ませたところで、リビングの時計が『ボーン』と一回なる。 「あ、13時になりましたね」 「お、そうか。じゃあ腹も一杯になった事だしささっと勉強しちまうか」 「はいっ」 あやせの部屋は、あやせの付けている香水の香りだろうか、石鹸のような甘い香りにつつまれていた。 『加奈子はてっきりモテナイ男が女の子の部屋に初めて入って、「ああ良い匂いがするなぁ」とか考えてるのかと思ったぜ』 不意に以前の加奈子の発言が頭の中でリフレインする。 あー、いかん俺は変態じゃないのだから女の子の部屋の匂いをクンカクンカする筈が無いのだ。 「え、ええと、あやせは授業方針とか希望あるか?」 頭を家庭教師モードに切り替え、授業方針を決める為、あやせに質問をする。 「たまに授業で解らないところが出てくるんです。今までは桐乃に教えてもらってたんですけど、桐乃も部活やモデル活動 がありますし、桐乃に頼ってばっかりじゃいけないなと思いまして」 「今は解らないところは無いのか?」 「はい、今のところは桐乃のおかげで特に理解できていない部分は無いと思います」 確かに些細な事でも理解できない部分を放置すると、積もり積もって後になったら手を付けられないって事にもなりかねない。 今のところ特に理解できていない部分は無いだろうという事ならば、例の麻奈実印の問題集「改」(俺が授業進度に合わせた) でも解いてもらって、あやせの実力を確認させてもらうとするか。 「よし、じゃあ確認の意味も込めて、この問題集を解いてくれるか?」 「はい、わかりました」 さっそく真面目に問題に取り組むあやせ。 加奈子も今でこそ真面目に取り組んでくれるが、最初は問題集に取り組む事さえ嫌がってたからな。 お、やっぱりそこで詰まるか、そこはちょっと応用なんだよな。 などと、あやせが問題集のプリントにシャーペンを走らせているのを眺めていると、満腹になったせいなのか強烈な睡魔が襲ってきた。 いやい…や、まてまて、家……庭、教師が居眠りし、てちゃあ洒落になら…、んだろう… ピチャ…ピチャ…チュル…チュプ… ん?なんの音だろう、頭もボーっとする…股間もなんだか温かくて気持ちが良い… 俺はいったい何をしていたんだったか… 寝起きで朦朧としている意識を呼び起こし、記憶を整理する。 あやせの家庭教師に来ていて、突然眠くなって…?ってしまった「すまんあやせ!」 「ガチャッ」 飛び起きようとするが両手が何かに遮られて起き上がることが出来ない。 視線を上に向けると、ベッドの上で万歳をするような格好で、両手首には懐かしい鈍い光を上げる金属のリングがはまり そのリングのツガイは、ベッドのポールをやはりリングで拘束している。 「ン、フッ、チュパ、ペロ…あ、お兄さん目が、ンフ、覚めたんですね、チュル…アハ…」 声のした方向に目を向けるとそこには、俺の股間に顔を埋め、リヴァイアサンにうやうやしく舌を這わせるあやせがいた。 「ちょっと待てお前!一体何をしてるんだ!」 「何って…チュル、お兄さんのペロ、おちんちんを舐め…て…チロチロ、るんですよジュププ」 そう言い終えるやいなや、あやせはリヴァイアサンを深く口の中に咥えこむ。 股間から背骨に向かってぞわぞわと這い登ってくるような未知の快感と、突然の出来事に頭が真っ白になる。 「そうゆう事じゃ無くてだな、こうゆうのは、夫婦とかカップルがする事だろう!」 あやせから与えられる心地よい刺激に耐えながら思考を纏め、精一杯の正論を吐く。 「プハッ、お兄さん、性交渉というのはカップルや夫婦でなくても出来るんですよ」 物理的に可能である…と、反論を述べながら、今度は手でリヴァイアサンを何度も繰り返し扱き上げる。 「それに、お兄さんのこれ…ピクピクしてきましたよ?ウフフ…気持ち良いんですよね?」 「そ…れは…クッ」 事実俺は、あやせの美しい手で優しく扱かれる事に快感を覚えており、反論の言葉を紡ぐ事が出来ない。 しかし、俺は桐乃と約束したのだ。 お前が彼氏を作るまで、俺も彼女は作らない…と。 であれば本来、彼氏彼女が行うべき行為をするという事は桐乃を裏切る事になるのではないか?と。 そうだ、俺は桐乃の笑顔を守る為にも桐乃を裏切るような事は出来ない。 両足は自由であるが、あやせに乱暴な事をする訳にはいかないし、仮にあやせを蹴り飛ばしたところで両手は拘束されている。 ただでさえヤンデレの気のあるあやせだ、激昂したあやせに首を刎ねられ、鞄に入れ持ち歩かれるというnice boatな結末は避けたい。 「それでも俺はこういった行為は、好き合っている同士でないと駄目だと思うんだ。なぁ、あやせ…今ならまだ引き返せる。 それにお前だってこんな形で結ばれたって嬉しくなんてないだろう?」 不意にリヴァイアサンを握るあやせの手が離れる。 「あやせ…お前が何を思いつめてこんな行動に出たのか解らない。けどよ、俺h…グァッ!!」 あやせがリヴァイアサンを強く握った為、思わず情けない声を上げてしまう。 おいあやせ…それは洒落にならん痛みだから勘弁してk… 思わずモノローグの声さえも失ってしまう光景、あやせは光の無い目で 「嘘………それは嘘…嘘嘘嘘嘘嘘嘘!嘘吐かないでよ!」 「だってお兄さん、私に結婚してくれって言ったじゃない?私に結婚してくれって言ったでしょ?私に結婚してくれって言いましたよね!?」 「それをあんな泥棒猫の色香に惑わされて…それに私、お兄さんの事好きだったんです、いえ、今でも好きなんです…」 「だからお兄さんから結婚してくれって言われて凄い嬉しかったんです」 あやせは俯き嗚咽を漏らし、俺の腹部にあやせの涙が落ちる。 「でももし、私の想いが叶ってお兄さんと付き合う事になったとしたら、桐乃が悲しむんです!」 「私の大好きな桐乃が笑ってくれなくなるんです!」 「嫌………そんなの嫌…嫌嫌嫌嫌嫌嫌!嫌なんです!」 あやせは顔をあげ、あやせの顔にふわりとした笑みが戻る。 「でも私気付いちゃったんです。私も桐乃もお兄さんの事が好き。いえ、愛していると言っても良いです」 「そして私は、お兄さんの事も、桐乃の事も同じくらい好きなんです」 「お兄さんが私の事をまだ好きで居てくれてるならお兄さんと、桐乃と私…3人が幸せになれる方法を一緒に探してください」 ふいにあやせの顔が近づいてくる。 あと少しでキスをしてしまいそうなほど近い。 「ですから今からする事は、お兄さんが私の事をもう好きでないなら、私を騙したお兄さんの罪に対する罰です」 一体あやせは何をしようとしているのだ? 確かにあやせの言うとおり、俺のセクハラ発言であやせを傷つけた。 あやせが俺に対して罰を与えたいというならば甘んじて受けよう。 「そしてもし、お兄さんが私の事を好きだというのなら」 あやせがふぅっと息を吐き、そして 「んっ!あぁっ!」 あやせの叫びとともに、突然リバイアサンを温かい肉を分け進むような快感が襲う。 「は…あぁ…、3人が幸せになれる方法を探す約束をした契約の証です」 リヴァイアサンをあやせのヌラリとした肉壁がひくひくと撫で付ける。 あやせがゆっくりと腰を上げると、リヴァイアサンにあやせの破瓜の証である鮮血がこびりついているのが見える。 そしてあやせが腰を落とすと、リヴァイアサンは再びあやせの膣内に、プチュリという音を立てて飲み込まれる。 あやせと繋がっているという感覚と、あやせの上げる悲鳴か嬌声か解らない声が、絶え間なく俺の脳髄に快感という電気信号を送る。 いったい何十秒、何分が経過しただろうか。 目の前で起こる幻想的な光景に俺は時間という感覚を手放していた。 しかし先程まであやせの執拗な愛撫を受け続けていたリヴァイアサンが長持ちする筈も無く、いななきを上げ始める。 「お、おい!あやせ、もう出ちまう!どくんだ!」 しかしあやせは妖艶な光を瞳に宿し 「いいえ、駄目です。どきません」 と口を開くと、激しく腰を前後に揺らし始める。 あやせの陰毛と京介の陰毛が絡み合うほどに密着し、リヴァイアサンの頭にコリコリと子宮口が当たる。 「ふぇ!?え…ハァ、アァ!これ何?え?アァン、私…私…初めてなのに気持ちウ…ハァ!良いっ!」 あやせは破瓜の痛みに悩まされながらも、自らが主導権を握る体位の為、本能のまま快感を得られる動きを模索していた。 「クソッもう出ちまう!」 「キャッ!?アッ!アッ!アッ!ンッ!アァッ!アンッ!ハァッ!」 最初はされるがままだった京介も射精感が高まるにつれ、あやせに釣られ、下からあやせを突き上げるような動きをし始める。 「出すぞ!あやせ」 「は、ァい、お兄さんッ、の精液、アァンッ!私に下さいっ!」 あやせの最奥でぴたりと留まったリヴァイアサンから白い粘性のブレスが吐き出される。 「あぁ……はぁ…、お兄さんのピクピクしてます…」 「クッ…はぁ、しょうがねーだろ、男ってのは射精する時はこうなるもんなんだよ」 ハァ、射精したとたんに冷静になってくるとは、俺も現金なもんだ。 これが俗に言う賢者モードってやつなのかね。 息も絶え絶えといった様子のあやせが俺の胸へと倒れこんでくる。 胸に当たるあやせの吐息と、呼吸によるわずかな上下で鳩尾のあたりに当たるあやせの乳首がくすぐったいな等と思いつつも あやせになんと声を掛けるか考える。 「なぁ、あやせ…お前には随分と辛い思いをさせちまったみたいで本当に申し訳ない」 俺の体の上で、あやせの体がピクリと硬直する。 「けどな」 あやせの体がさらに強張る。 「これからは一人で思い悩むんじゃねえ。俺達は、その幸せを探す契約したんだからよ」 強張っていたあやせの体から力が抜けたと思うと、あやせがウルウルと涙目でこちらを見つめてくる。 「え?それじゃあ…」 「ああ、俺もあやせの事が好きだ。お前が俺や桐乃を想ってくれてるのと同じようにな」 俺の首に抱き付きキスをしてくるあやせ。 「おいおい、キスは嬉しいけど、そろそろこの手錠外してくんねぇかな?いい加減手首が痛くなってきた」 「あ、はい…ごめんなさい」 しゅんとなりつつも手錠を外してくれるあやせ←カワイイ 手錠を外し終わり、あやせが潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。 ああ!もうやっぱラブリーマイエンジェルは可愛すぎて、最高に「ハイ」ってやつだぁぁぁぁ!!! その後、あやせとキスして乳繰りあっていたら俺のリヴァイアサンが元気を取り戻し第2Rに突入したのは言うまでも無い。 01 02